先進設備、高度な技術を有し、多様な分野にわたり付加価値の高いものづくりに関わっているにもかかわらず、展示会や会社案内等に具体的な製品見本を出して自社PRをすることができない。
“研究開発支援業”を標榜し量産メーカーの試作品づくりに徹するアトラス(相模原市中央区田名塩田1の13の10、青木孝夫社長)は、1982年の創業以来、裏方的存在であり続けているユニークな企業である。
樹脂の切削加工でスタートし、88年に真空注型と精密板金の2部門、95年には光造形部門を新設。家電大手や文具、アミューズメント系企業を主要顧客に、着実に成長してきた。
試作品づくりが芸術作品制作と一線を画すのは顧客の存在だ。
「全くの白紙からアイデアを出すような仕事もあるが、大半は顧客の商品開発部が描いたラフデザイン等をたたき台に肉付け、発展させていく作業」と同社若林祐次企画室長は話す。
まず重要なのは顧客の思いを形にしていくことであり、顧客を驚かすこと、喜ばせることにとどまらず、ヒット商品づくりに貢献することが究極の使命である。
ここでいうヒット商品とは、表面上の人気や評価ではなく、顧客に大きな利益をもたらすもの。専門家の高い評価を得ても売れ行きが伴わなかったり、数は出ても製造コストがかさみ薄利になるようでは、真のヒット商品とは認められない。裏方だからこそ、こうした部分での貢献度が次の発注につながってくる。
そんな同社の高い技術を支える礎は人だが、常に最先端が求められる業種だけに設備投資は重要。光造形機3台、3軸・5軸マシニングセンター計28台、3次元CAM20台、真空注型機3台、3次元測定機ほか多種多様な機器が整列する工場内はなかなか壮観だ。
そこに昨年、新たに加わったのが、電子レンジ同様の原理で成形品を作るマイクロ波成形機。
マスターモデルから作った特殊シリコンゴム型にマイクロペレット化された熱可塑性樹脂を敷き詰め同機で照射・加熱すれば、マスターの複製品を短納期、低コストで成形できるというもので、日本発、世界初の新工法である。
事業の一部として試作品を手掛ける企業は多々あるが、創業以来、試作品づくりに特化した企業として、工法一つにもTPOにこだわる。
「社員は大切な協力者であり、現場にはできるだけ口出しせず任せている」という青木社長だが、積極果敢でユニークな設備投資自体が、企業理念と今後の進路を社員に指し示している。
バブル崩壊期もリーマンショック時も安定経営を続けてきた同社が昨春、相模大野で介護人材育成スクールを始めた。
青木社長の知古を経ての新事業で、リスク分散というほどの役割は担っていないが、同社の歩みを見るにつけ、今後の展開が楽しみだ。
(編集委員・矢吹彰/2015年4月10日号掲載)