鹿沼由理恵さん、東京パラ五輪で金メダルめざす/リオ「銀」で町田市民栄誉彰


「両親にも感謝」と鹿沼さん

  「両親にも感謝」と鹿沼さん



昨年のリオデジャネイロパラリンピックに日本代表として出場し、自転車女子タンデム個人ロードタイムトライアルで銀メダルを獲得した町田市出身の鹿沼由理恵さん(36)。2020年の東京パラ五輪での金メダル獲得が期待されている。今年、勤め先を都内から相模原市内に変えて地域との結び付きを強め、「町田・相模原地域から障害者スポーツ振興を発信したい」という強い思いも持っている。数々の試練を乗り越えつつ重ねてきた国際大会での体験と、「東京」に向けた胸の内を語ってもらった。(編集委員・戸塚忠良/2017年9月1日号掲載)

■クロカンで五輪

1981年5月、町田市本町田に生まれた鹿沼さんは生まれつき弱視の障害を持ち、町田第六小、町田第二中を卒業後、都立山崎高校に学んだ。

生来の運動好きで、25歳のときから本格的にクロスカントリースキーを始めた。パラリンピックやデフリンピックを目指す選手たちの合宿に参加するうち、「みんなが工夫しながら自分のできることを精一杯やっている。障害のあることを言い訳にせず一生懸命に練習している」との思いが深まり、その姿に心を動かされた。

10年にはバンクーパー五輪冬季パラリンピックに出場。個人競技で7位、女子リレー5位など4種目で入賞した。

ある競技後、優勝した日本代表選手の表彰式で国歌が流れる中、日の丸の旗が掲揚される荘重な雰囲気に触れた鹿沼さんは、「ほかの国際大会とパラリンピックとでは日の丸の重みが全然違う。私も次のソチで日の丸を揚げたい」と願うようになった。

「出るだけでもうれしい」という思いが「出るだけではだめ。金メダルという成果を自分の手にしなければ」という激しい情熱に変わった瞬間だった。

■自転車で復活

この思いをばねにハードな練習を重ねてソチに備えたが、この特訓には思いがけない落とし穴が待ち受けていた。11年冬、雪上の練習中に転倒。雪の中に深く埋まったストックを引き抜こうとして右肩の靱帯を損傷したのである。

「ソチで目標はとても達成できない、競技をやめようと思った。ただ、心のどこかに競技を続けたいという気持ちも残っていたと思う」と辛い過去を回想する。

深い挫折感を打ち明けたのは、バンクーバー大会で親しくなったカナダのロビン選手。辞書をひきながら揺れ動く気持ちを綴った手紙を送った。

ロビンさんは「私も夏のパラリンピックで自転車競技に転向した。努力して国際大会で優勝できた」と体験を語り、「新しい競技に挑戦してほしい」と励ます返事を送ってくれた。

12年5月、自転車競技に転向。リオ五輪を目指して新たな挑戦を始め、ワットバイクという自分の脚力を数字で確認できる装置も活用して汗だくの練習に励んだ。

■リオで「銀」

視覚障害者の自転車競技タンデムは、二つの自転車がつながっており、前に健常者、後ろに障害者が座り、息を合わせて傾斜のついたコースを駆け抜ける。鹿沼さんのパートナーは競輪女子選手の田中まいさん。

「二人のパワーを最大限出せるようにペダルを踏み込むタイミングを合わせることが大切」という。

練習と実戦を重ねる中で14年のロード世界選手権タイムトライアルで優勝を飾ったのをはじめ、15年にかけていくつもの国際大会で好成績を収め、リオパラ大会への道を切り開いた。

リオでは競技の開始直前、ギアが故障するアクシデントに見舞われたが、それも克服して見事に銀メダルを獲得。ほかの2種目でも入賞を果たし、町田市民や競輪関係者をはじめ多くの人々の期待に応えた。

■地域との絆

帰国後、町田市で6人目、障害者としては初めて町田市民栄誉彰を贈られ、贈呈式で祝福に駆けつけた500人の市民らを前に「たくさんの市民に応援していただき、橋本聖子さんから学んだ通り、プレッシャーをサプリメントにして力を出すことできました」と挨拶して会場をわかせた。

その後、町田相模原経済同友会の例会に招待されたのが機縁になって、障害者スポーツに関心の深いウイッツコミュニティ(相模原市中央区)の柴田社長に誘われて都内の企業から転職。新しい職場と町田市のサイクルセンターをランニングで通勤する日々を送っている。

東京パラリンピックまであと3年。今夏、腕の神経剥離を治療する手術を受けたが、「競技生活への復帰に支障はありません」という。2020年の夏は、町田・相模原市民がこぞって地元アスリートを応援する季節になりそうだ。

物静かな語り口で優しく語る鹿沼さんだが、その胸には、「すべての人のためにスポーツを」という熱い思いが燃えている。「東京五輪を障害のある人も健常者もごく普通に参加できるスポーツ大会を普及させるスタートにしたい」と願い、「町田・相模原でその一歩を刻む催しを」と力をこめて語る。

 

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