沖吉和祐理事長、良き家庭人・社会人育てる/創立91年目の東京家政学院大


創立者の志を継ぐ沖吉理事長

創立者の志を継ぐ沖吉理事長

 本紙既報のとおり、東京家政学院大学町田キャンパス(相原町)の学生が制作した映像作品「友だちのカタチ」が、7月に開催された仏・グルノーブル市主催の第39回屋外短編映画祭で上映され、好評を博したという。相模原市に隣接する同キャンパスでは、創立者大江スミが掲げた、国際的視野を持つ良き社会人・家庭人を育てるという建学の精神を受け継ぐ体験豊かな教育が行われており、地域との多彩な連携事業にも取り組んでいる。学院の沿革と将来展望を沖和祐理事長に聞いた。(編集委員・戸塚忠良/2016年9月20日号掲載)

■創立者大江スミ

 東京家政学院大学(廣江彰学長)は1925年、わが国家政学の先覚者、大江スミによって麹町区(現・千代田区)三番町に設立された。

 大江スミは1875年長崎の出身。東京の東洋英和女学校、女子高等師範学校に学び、沖縄で教員を務めた後イギリスに留学。帰国後は家政学の確立に尽力し、「良き家庭人・良き社会人の育成」を目標にして家政学院を創立した。

 今も受け継がれる、バラをかたどった「KVA校章」は「知識を高め、徳性を養い、技術を磨く」という建学の精神を表している。キリスト教を信仰した大江は学生に「世の光、地の塩となれ」と諭したという。

 創立90年あまりを経た現在は、生活学部1学部5学科、2キャンパス制をとっている。千代田三番町キャンパスには、衣食住を総合的に学び豊かな暮らしをコーディネートする提案力を養う「現代家政学科」と、管理栄養士を始めとする栄養のスペシャリストを養成する「健康栄養科」を置いている。

■町田キャンパス

 13.8ヘクタールという広大な敷地を持つ自然豊かな町田キャンパスは、JR横浜線相原駅が最寄り駅。

 「生活デザイン学科」「児童学科」「人間福祉学科」の3学科が設けられており、生活文化博物館、国際交流センターなども備える。

 生活デザイン学科の学習領域は、生活に関わるあらゆる「ものづくり」。学生たちは津久井地域の伝統食品のプロデュースはじめ、農産物の生産現場での実習、J:COMの番組制作、ファッションショーの企画と作品発表、地元スーパーマーケットの弁当の企画などを体験しながら、快適な暮らしをデザインする力を身に着けていく。

 児童学科では保育士、幼稚園教諭、小学校教諭、社会福祉主事などをめざす学生たちが学ぶ。広い視野で子どもをサポートする能力を育成するため、保育・教育現場を想定した少人数での体験型演習、キャンパスの自然に恵まれた環境の下での地域の親子との交流などが組み込まれている。

 人間福祉学科では社会的な需要が高まっているソーシャルワーカーの専門技術に加え、セラピーや福祉施設などのマネジメントを習得する。質の高い福祉サービスを提供するため、地域のニーズ調査や施設経営などの幅広い福祉ビジネスの知識習得にも努めている。

 今年度の学園案内の冊子には、「体験あふれる学びで、視野がぐっと広がりました」といった感想談とともに、「食の楽しさと正しい知識を地域に広めていきたい」「子どもの心に寄り添える教育者になりたい」など、若い夢いっぱいのコメントがあふれている。

■理事長の展望

 現在、関連校として中学、高校、筑波学院大学を擁する学校法人東京家政学院の運営をリードする沖和祐理事長(73)は、広島県生まれ。京都大学卒業後文部省に入り、日本学生支援機構理事などを務めた後、家政学院理事長に迎えられた。
会員1万5千人の日本スクエアダンス協会会長という華麗な肩書も持つ沖さんは、家政学院のこれからを展望してこう語る。

 「90年以上も前に、実践の学、経世の学を目指してKVAの重要性を説いた大江先生の先見性は今も学園に息づいています。良き家庭人、良き社会人を育て、絆と連帯を大切に、健康で心地よい生活環境づくりをめざす学院の役割がますます大きくなるのは間違いありません」

 町田キャンパスと地域の交流を深める構想はあるのだろうか。

 「キャンパスを地域ミュージアムの拠点にしたいですね。図書館の蔵書をデジタル化して利用しやすいようにしているのはその一環です。また、一度社会に出た地域の人が生涯学習の場としてキャンパスでもう一度気軽に学ぶ仕組みを作れば、地域貢献になるでしょう。経験豊かな地域の人に専門的な話をしてもらうのもいいのではないでしょうか。学園創立100周年に向けて校章にちなんだバラ園を設け、地域の人たちに育ててもらうことも考えています」

 期待する学生像は?との問いにはこう答える。

「自分のしたいことは何かをしっかり見極め、問題意識をもってほしいですね。自分を磨いて視野の広い教養を身に着け、問題の解決法を自分で見究めてほしい。人や社会とのコミュニケーション能力を備えることも大切です。自分の人生軸、人とのネットワーク軸、社会と地域の歴史的・将来的な時間軸の3つの軸を念頭に置きながら日々を過ごしてほしいと思っています」

 そして、「このキャンパスで学んだことを活かして社会のために何かをしたいという気持ちを持って卒業していく学生を育てたい」と、理事長としての強い思いをこめて語る。

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