神奈川県の黒岩祐治知事は9月24日、相模原市緑区西橋本5丁目で次世代太陽電池の研究・開発と量産化に取り組むスタートアップ企業「PXP」(さがみはら産業創造センター内)を視察し、同社の栗谷川悟社長らと意見交換を行った。県が実証実験の支援と、県民への周知の場を提供し、普及に取り組んでいく考えを示した。【2024年10月10日号掲載】
PXPは「クリーンなエネルギーをいつでも、どこでも、だれでも自由に使える世界」を目指し、太陽電池デバイスの研究や量産技術開発の経験がある技術者ら約20人が集まって2020年に設立した。ことしから量産に向けて、新製法の作業性の検討や市場開拓用のサンプル製造に使用するパイロットラインを稼働している。
黒岩知事からの「実証実験での課題は」との問いに、「R&D(研究開発)レベルではある程度の生産方法を確立しているが、量産に繋げていかなければならず、量産技術の検証が必要」と答えた。
同社の次世代太陽電池は、県内で開発された「ペロブスカイト太陽電池」と、国内でも実用化の事例がない「カルコパイライト太陽電池」の多層構造で、薄くて曲がり、丈夫なことが特徴。1平方㍍当たりの重さが1㌔㌘未満(従来の太陽電池=約10~15㌔㌘)という軽さが最大の特徴で、工場や倉庫の屋根へ搭載できる。チタン箔をベースとしているため、割れにくさも強みだという。
黒岩知事は、東プレ(相模原事業所=中央区南橋本3)と共同でカーボンニュートラル研究開発プロジェクトの採択を受け実証実験を行っている、同太陽電池システムを搭載した冷凍・冷蔵コンテナを視察。関係者から説明を受けた後、「薄膜太陽光電池は工場の屋根などどこにでも接地できると期待したが、重く、効率が悪く普及しなかった。(太陽電池は)知事としての14年間の原点であり、神奈川からエネルギー革命が起きると期待している」と話した。
東プレは、冷凍・冷蔵トラックに搭載する低温物流システムを約1万4千台出荷しているが、車両のバッテリーから電力の供給を受けて電動コンプレッサーを稼働させる仕組みが主流。国内シェアでは半数を占めるが、5年後には6割を目指す。物流業界で進む電動化需要に応え、自然エネルギーで発電するシステムを強みにさらなる受注拡大を図る。
PXPの試算によると、国内で稼働する車両の約5%に導入すると、年間で約32メガワットの電力を賄うことができ、2万8千㌧の二酸化炭素削減効果が期待される。非低温の物流車両でも燃費を改善し、約38万トンのCO2削減を見込む。
PXPは、太陽発電システムの宇宙環境でも劣化しにくい特徴が認められ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の人工衛星に搭載されたことも報告した。「軽くて薄く取り付けも簡単」を利点に、車両の屋根や栽培用のハウスなどさらなる用途の拡大に期待する。