むつみ工業、顧客満足 自社成長のため 常に120%の対応姿勢/製缶・一般および特殊鋼材溶接


既存顧客対応を重視する座間社長

既存顧客対応を重視する座間社長

 世の中には特定の分野で「天賦の才」を持つ人もいるのだろうが、何につけ「努力できることが才能」「努力に勝る天才なし」と言われれば、全くその通りである。

 製缶、溶接を手掛けるむつみ工業(相模原市中央区田名)の座間洋行社長は2003年、27歳で同社を創業。現在も若い頃の面影を残すが、職人として、経営者としての姿勢は堂に入ったもの。それは紛れもなく努力を積み重ねて築き上げたものだ。

 高校卒業後、給料の良さで運送会社に就職したものの、仕事がきつく1年ほどで退職した。そこで次は趣味と実益を兼ねようと、鉄工所に再就職。10代半ばからオートバイの魅力にはまり、「ここで溶接技術を習得すれば、バイクの部品を自作したりカスタマイズできる」と考えたからだ。

 とはいえ、やはり考えが甘かった。出勤初日から右往左往するばかりで勝手が分からず、1日で退職。しばらくは、いくつかのアルバイトを転々としながら、溶接への未練が捨てきれずにいた。

 そんな折、母親から溶接を学べる職業訓練校が淵野辺にあると助言され、半年間通学。基本技術を学び、晴れて溶接部門を基幹とする企業に勤めることとなった。

 ところがなかなか溶接仕事をさせてもらえない。筋がよくないと思われたのか、別部門に配置されてしまった。

 別の溶接業者で腕を磨こうと退職し、小規模の溶接業者に転職。そこでは一般溶接だけでなく、高度な特殊鋼材溶接の技術を学ぶなど腕を磨き、工場長に就任。会社の顔として営業にも出るようになったのだが、今度は会社の経営方針に疑問を感じるようになった。

 「元来独立志向タイプではないが、営業への取り組みが今後につながらないし、職人としてこれ以上レベルアップできないと思い決断した」と、座間社長は振り返る。

 度重なる転職、予定外の独立起業。聞こえは芳しくないが、こうした紆余曲折こそが同社長を一回りも二回りも成長させた。

 「下請けでも元請けでも、構内でも出張でも、仕事、顧客に対する姿勢は変わらない。仕事をもらった上に、感謝の言葉と報酬が受けられるような職業はなかなかない。顧客満足のためにも、自社の成長のためにも、常に120%の取り組みで応えていく」

 同社では、座間社長を含め総勢8人の職人が日々フル稼働。より高い技術力、余力ある受け入れ態勢が整うまでは、既存顧客を大切にしたいという同社長の思いから、現在はホームページを作るなど新規顧客開拓に注力していない。
 いつの日か、同社のホームページが公開された時、同社、そして同社長はまた一回り成長しているに違いない。
(編集委員・矢吹彰/2016年3月20日号掲載)

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