青木一彦さん、「凡事徹底」をモットーに/「企業発展の根幹に経理あり」


飾らぬ人柄の青木さん

飾らぬ人柄の青木さん

 相模原市緑区橋本で税理士事務所を経営している青木一彦さん(74)。社会保険労務士、行政書士の資格も持ち、相続などに関する相談にもていねいに応じている。会計ソフトの普及に伴う企業の自社記帳、いわゆる自計化を勧奨する一方、税理士ならではの専門知識を生かし、クライアント企業の発展にもつながる適正な経理をサポートしている。「税制の改正、税務の複雑さの増加などに対応するため税理士自身が勉強しなければならない時代」と力説する青木さんは、事務所の法人化を目標に活躍中だ。(編集委員・戸塚忠良/2015年5月20日号掲載)

■税理士を志す

 長崎県佐世保市で少年期を過ごした青木さんは国立佐賀大学卒業後、公立中学校の事務職員に採用されることが決まっていたが、自分の生き方を見つめなおしたとき、安定した公務員の生活とは異なる道を歩みたいという気持ちが沸き起こった。それが税理士の仕事だった。

 「これしか自分の生きる道はない」と思い定めた青木さん。もともと、数字は嫌いではなく、中学時代の簿記試験で全校中ただ一人100点満点を取ったエピソードもある。「だからどうだということはありませんでしたが、税理士を目指そうという心の拠りどころになっていたかも知れません」。

 それからは、近所の人から「あの人は本を読みながら道を歩いている」と噂されるほどの猛勉強を重ね、30歳そこそこで資格を取得した。

■相模原で開業

 税務に携わる生活の第一歩を刻んだのは、東京・大田区での税理士事務所勤務。経験を積みながら人脈を広げ、ある顧客から「兄が相模原市で会社をやっているから面倒をみてくれないか」と頼まれた。こうして72年12月、南区大沼に税理士事務所を開設した。

 その頃はちょうど相模原市の人口急増期。67年から73年までは毎年2万人以上増加するほど全国屈指の人口急増都市になり、67年に20万人を超えた住民数は僅か4年後の71年に30万人を超えていた。

 産業面では人口増加に伴って商店街がにぎわい、深刻化する住工混在の緩和に向けて71年10月に相模原機械金属工業団地が完成。73年には中小工場の集団化を目指す峡の原工業団地が完成する。

 「相模原へ来たのは、市が将来も発展するだろうと予測したせいもあります」と青木さん。勤めていた事務所を半年でやめる心苦しさもあったが、家族4人の生活を営むためには自立する以外に道はなかった。

 「思い切って先生に退職したいと話したところ、快く承諾していただき、『始めのうちは収入がないだろうから、しばらくはウチに通いながら営業しなさい』と言っていただき、涙が出るほど有難かったですね」

■経理と経営意識

 とはいえ地縁の無い土地。最初は名刺を配り歩いてPRする日々が続く。それでも、自他ともに認めるフランク「で話しやすい性格も手伝って取引先を順調に開拓し、年間20件以上も増やして周囲から「すごいな」と驚かれたこともあった。

 それ以来、企業の記帳代行や決算書作成、税務申告、相続税申告、会社設立届けなどの税理士業務を主軸に、社会保険・労働保険手続き、給料計算、就業規則作成といった社労士業務、電子定款作成、会社設立、建設業許可申請、相続相談と手続きなどの行政書士業務を手がけている。

 企業からの相談に応じて、具体的なアドバイスをする機会もある。たとえば、計画的な納税準備策としての自動積み立ての活用。実行した経営者から感謝されたこともあるという。

 「自動的にたまるのは大きいメリットです。そのように持っていく計画性が大事です。お客さんからのありがとうの言葉が何よりうれしい。やりがいを感じます」と笑う。

 長い間の経験で実感するのは、利益を出す会社は経理がしっかりしている、ということ。

 「事業主が頭の中だけで経理内容を漠然とつかんでいるだけでは会社の将来を計画立てることは難しい。きちんと数字を把握することで、売り上げ増を実現するにはどうすればいいか、自社の立ち位置がどうであるかを把握し、発展に向けた手立てや人の採用などを考えられると思います。経理がしっかりしていることは事業主の意識が前向きであることの証明だと思います」得意先の90%が市内の企業。「近年、得意先の数に大きな変化はありません」と、安定した経営ぶりをうかがわせる青木さん。橋本地域の将来については「リニア新幹線の橋本駅開設が地域活性化の起爆剤になれば」と期待を寄せる。

■意気衰えず

 志を立ててから半世紀、開業から43年の星霜を重ねたが、税理士の業務を続ける意欲に衰えはない。「事務所を法人化して第二、第三の拠点を設けたい。ただ、そうなっても自分だけで手が回るかどうか…(苦笑)。まじめで信頼に足る人材を見付けて、一緒にやっていきたいですね」と真情を吐露する。

 「多くの経営者は大変な努力をしています。また、相続問題で問題を抱える人も少なくありません。そういう方々の立場に立って業務を続けていきたいと思います」と語るベテラン税理士。心に刻んでいるのは『凡事徹底』『相手の身になって』『皆の幸せのために』の三つの鉄則だ。

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