田中水力、小水力へのこだわりが時流を引き寄せる/発電プラントの設計・製造・販売


米国生まれ、育ちの田中社長

米国生まれ、育ちの田中社長

  民間が発電した再生可能エネルギー電力の買い取りを電力会社に義務付けるなどの法制度が整備されたことで、近年都市近郊でも、多数のソーラーパネルが並ぶ太陽光発電所や巨大プロペラが優雅に回る風力発電機がお目見えするようになった。

 一方、これらのように目立つ存在ではないが、全国各地で着々と増えているのが、ダムや調整池でなく、農業用水路や上下水道等の流水を貯めずにそのまま利用する小水力発電プラントだ。「小水力」に厳密な定義はなく、電力業界では1万キロワット以下。さらに1000キロワット以下をミニ水力、100キロワット以下をマイクロ水力と位置づけている。

 田中水力(相模原市中央区南橋本4の3の15、田中幸太社長)が手掛けるのは、5000キロワット以下の小水力発電プラントの設計・製造・販売。ことミニ水力の規模では全国で40%のシェアを誇る。

 再生可能エネルギー関連のビジネスに参画するのは、東日本大震災を契機に起業した新進気鋭の業者も少なくないが、同社は水力発電の専門会社として83年の歴史を持つ。

 前身は、1932年に田中社長の曾祖父・茂氏が都内で創業した田中水力機械製作所。当初から発電用水車の新製・改造・修理を看板に掲げてはいたものの、新製・改造は海外製品と大手の牙城だから、実質的に既存設備の保守点検が長らく同社の基幹だった。

 とはいえ、60年代初頭まで国内の発電は水力が主役。各地に次々と建設される水車の保守点検を請け負うことで安定成長できた。しかしその後、火力発電が水力を凌駕し始めると、同社の事業も徐々に厳しくなっていく。

 そんな中で同社は、それまで培った技術を生かして、まだ国産のない小水力向き水車の開発研究に着手。80~81年には、通産省(現経済産業省)の補助事業として、流量変化に対する効率特性がフラットで低流領域の効率が高いクロスフロー水車を委託研究。88年には、軽負荷特性に優れ、安価で設置・保守が容易なターゴインパルス水車の国内1号機を納入した。

 94年には発電機や制御装置を手掛ける電気部門を新設し、プラント事業に進出。それでも、国内に小水力発電の市場はほとんどなかった。それが突如広がったのは法制度と大震災が要因だが、同社の地道な努力の賜物だといっても罰はあたるまい。

 07年には中大水力用として広く普及するフランシス水車を小水力用に改良したインライン式リンクレスタイプを発表。12年には初の国産ターゴ水車を納入。その高い技術力を見込まれて、しばらくはバックオーダーを抱える繁忙期が続きそうだ。

 「当面は国内市場拡大が最優先。熟練工の高い技術が弊社の大きな強みだが、競争力を高めるためには、新卒や女性の雇用を積極的に進めきたい」
 米国に生まれ育ち、現地で起業経験もある田中社長は若干39歳。その視線は現状に埋没することなく、かなり先に向けられている。

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