サンクトガーレン、「本気」を味で証明/日本のビール文化に一石


ビール文化の革命・岩本社長

ビール文化の革命・岩本社長


 サクラやチョコレートなど、ユニークなフレーバービールを製造する「サンクトガーレン」(厚木市金田)。社長の岩本伸久氏は、本場・米国で飲んだクラフトビール(地ビール)の「味」に衝撃を受け、サンフランシスコで醸造所(ブルワリー)を開設。日本の産業規制の象徴として同社を扱ったニュースは、細川政権を揺り動かした。日本政府を動かした革命児は、ビール文化に一石を投じようとしている。
(芹澤 康成/2015年3月20日号掲載)

 ■酒税法の壁

 サンクトガーレンの設立前、父が経営する飲茶店でビールづくりをしていた。当時、飲茶店を国内と米国サンフランシスコに出店していた。

 カルフォルニアの田舎町で出会った、自家製の「エールビール」が醸造家の道に入ったきっかけだった。

 日本で一般的に飲まれているラガービールにはない、華やかな香り、しっかりした味わい。「何で日本にこんなビールがないのか」と衝撃を受けたという。

 当時、日本では小規模ビール醸造が認められていなかった。サンフランシスコでブルワリーを開設。ビールを製造し、六本木の直営飲茶店で逆輸入して販売していた。

 日本人がブルワリーを開設したというニュースは、「タイムズ」や「ニューズウィーク」などの米国メディアで取り上げられた。「岩本のビール造りの夢はかなった。ただしそれは日本ではなく、アメリカで」と皮肉たっぷりに。

 ■再開の喜び

 次に日本のメディアに飛び火。それをきっかけに細川護熙政権下の94年、小規模のビール醸造が認められるようになる。それがいわゆる〝地ビール解禁〟だ。日本における地ビールの歴史の幕が開けた。

 日本に戻ってきたのは97年で、厚木市にブルワリーを建設した。地ビールブームも追い風となり、最初は順風満帆だったという。

 しかし、ブームは去り状況は悪くなっていく。国内で経営していた飲茶店も行き詰まっていた。

 そして2001年、ついにビールづくりができなくなった。皮肉にもその年、岩本社長が国内の品評会に出品したビールすべてが入賞。「虚しさに包まれた自分がいた」と振り返った。

 ビールづくり再起の道を模索する中、「地ビールなんてもうからない、辞めた方がいい」という声もあった。「それでも、自分にはビールしかない」自分の生涯を掛けてビールを造り続けることを誓った。

 新しい会社「サンクトガーレン」をたった1人で設立。しかし、資金は皆無に等しく、申請もスムーズにはいかなかった。本当にビールがつくれるようになるのか、そんな不安を抱えつつ走り続けていたという。

 「サンクトガーレン」として初めてビールをつくれるようになったのが03年春。1年ぶりの再開だった。「また、ビールがつくれるようになる」という想いは、受賞した時よりも喜びがあった。

 再開してからはつくることに喜びを感じ、「誰かがおいしいといってくれたらいいとか、一人きりの会社だから、自分が食べていければいい」という自己満足の気持ちが大きかった。それがある女性社員との出会いで変わっていった。

 ■多くの人へ

 ただつくるだけでなく、たくさんの人に飲んでもらうことも大切だ、と気付かせてくれたのは、広報を務める中川美希さんだった。

 中川さんを迎えて初めてつくった商品が、バレンタイン限定のチョコビール「インペリアルチョコレートスタウト」。数々のメディアで取り上げられ、国内外の品評会でも軒並み入賞。サンクトガーレンを有名にするビールとなった。

 ある時、中川さんに「ビールは苦いから嫌い」と言われた。さすがに自社内の人間に「だったらビールを飲まなければいい」と言う訳にもいかなかった。身近にいる人間に自分のつくったものを美味しいと思ってもらえないことが悔しかった。

 「より多くの人にビールを飲んでほしい」と考え、立ち上げたブランドが「スイーツビール」。漠然と思い描いてきた夢への挑戦が始まった。

 それまで岩本社長がつくってきたビールは、自身が飲みたいと思うビール。「気に入った人に〝美味しい〟と言ってもらえれば良い」という姿勢だった。

 ビールが苦手だった人、興味のなかった人が、これをきっかけにビールを楽しむようになっていく。そんな味づくりを目指しているという。

 「スイーツビール」を発売した当初、そればかりが目立ってしまい「サンクトガーレンは本流のビールを捨てたのか」という声があった。

 それは本当に心外で、相当悩んだ。「間違った方向に進んでいるのではないか」とか、「スイーツビールを一旦休止しようか」とまで考えたという。

 そんな最中、07年に開催された日本最大のビール品評会の来場者人気投票で、「スイートバニラスタウト」が1位を獲得した。「まったく予想していなかったことで、本当にうれしかった」と話す。

 ■一石投じる

 それまでやってきた本流のビールも、スイーツビールをはじめとする新しいビールも、どちらも本気だということを「味」で証明していくと決心した。ビールには種類がある、ということを多くの人に伝えていく。

 チーズは、いろいろな種類があることをほとんどの人が知っていて、スーパーに行けばそれが簡単に手に入るようになった。「チーズのように日本のビールもなったら、面白くなる。そのきっかけをサンクトガーレンがつくっていきたい」と強調する。

 岩本社長は「日本のビール文化をもっともっと面白くしていきたい。小さなビール会社が、日本のビール文化に一石を投じることができたら」と話していた。

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