モナの丘、野菜栽培と癒しの緑園/都市型農業の振興に挑む


「モナの丘」の桑田俊夫さん

「モナの丘」の桑田俊夫さん


 農業を基盤にした彩り豊かな活動を展開している都市型農園「「モナの丘」(相模原市南区下溝)。約4・4ヘクタールの広大な敷地でにんにくやトマト、長ねぎ、にんじんなど多種多様な野菜とハーブ、果実を栽培しており、レストランとバーベキュー設備も備え、人と人との出会いの場にもなっている。この健康とにぎわいの里を運営しているのは、農業生産法人グリーンピア相模原。代表取締役を務める桑田俊夫さん(77)は、意欲と元気いっぱいの〝農夫経営者〟だ。(編集委員 戸塚忠良/2015年1月1日号掲載)

■想いの結晶

 モナの丘は、「人が集まり、交流する都市型の農業施設を作りたい」という桑田さんの願いがつまった施設で、オープンから約10年が経過した。当初は協力者の確保に苦労したが、今では快く協力してくれる農業関係者が増えている。

 収穫した野菜とハーブは園内の直売所で販売しているほか、農園に隣接する直営レストランで料理に活用されている。またボーノ相模大野の相模原のアンテナショップ・サガミックス、JA直売所「ベジたべーな」などでも販売している。

 最近特に人気が高まっているのはニンニク。7年ほど前から栽培に取り組んでいる。「ここだけでなく協力農家でも大事に育てたニンニクを手間ひまかけて発酵・熟成させて、ニンニクが本来持つパワーが増大する黒にんにくに加工しています。甘味があるのが特徴です」と桑田さん。年間14トンから16トン出荷しており、今も電話などでの注文をこなしきれない状態が続くほどの人気だ。

■環境型農法

 野菜栽培の特徴は、自家製堆肥によるバイオマス農法。化学肥料に頼らず、微生物を活用した乳酸菌発酵と、アミノ酸発酵を活用する栽培法だ。

 桑田さんは「土に力を与えると同時に、食の安全と環境に配慮した理想的な循環型農法」と胸を張る。現在、相模川河畔の水田でバイオマス農法による稲の実験栽培も行っている。

 ただ、この農法は厳密な意味での無農薬・有機栽培の枠に入らないため、その旨を明示している。

 農園を彩るバラ園と群生するラベンダーなどのハーブは、訪れる人の目を奪い、花と野草の魅力を強く印象付ける。

 園内のログハウスはレストラン。メニューは野菜とカレーが中心で、ゆったりとした気分で食事やお茶を楽しむのにぴったりの広々としたスペース。知り合いとの気軽なおしゃべりの場としてだけでなく、窓の向こうに広がる緑の情景を見ながらひとときを過ごすのにも適した癒しの施設だ。

■広がる人の輪

 モナの丘は、野菜やハーブの栽培地であると同時に、年間を通してさまざまなイベントを開催し、人が楽しく集う場にもなっている。毎月1回アロマセラピストの石井智子さんを講師に迎えて、ハーブについての興味深い話を聞き、参加者が自由なおしゃべりを楽しむハーブ講座サロン、ミュージシャンによる生演奏を聴きながら食事を楽しむ音楽会の夕べといったイベントには女性参加者が多い。

 時期に応じたラベンダーの摘み取り体験、サツマイモ掘りなども開催しており、多くの家族連れなどの姿が見られる。

 最近、新たに始めたのは、イチゴ栽培体験。「五感塾」という名称で参加者を募っており、プログラムには除草、マルチ張り、施肥、収穫、ジャム加工が盛り込まれている。「収穫が講座の最終目的ではありません。農作業を通じて心身の健康を保ち、豊かな感性をはぐくんでもらうのが目標です」と桑田さんは語る。

 モナの丘が挑戦している都市型農業構築の挑戦は当然、地域とのかかわりを深めることにつながっている。近隣の幼稚園の給食の残さを回収して、農園内に設置しているプラントで液肥化しているのはその一例だ。レストランではランチやお茶を楽しんだり、野菜の栽培についての話に花を咲かせたりする地元の人たちが増えている。

 周辺の小中学校で桑田さんがモナの丘の仕事についての話をする機会もあり、「農業の大切さがわかりました」といった感想をつづった手紙が寄せられ、桑田さんを喜ばせることも少なくない。

 現在の従業員は26人だが、ボランティアを受け容れて栽培の指導をしたり、農家経営を目指す若者を支援したりするのも大事な役割になっている。

■「農」への想い

 広島県の農家に生まれた桑田さんはサラリーマンをした後、プロパンガスの販売会社を経営したが、農業に帰りたいという想いをずっと持ち続けていた。

 「小さい頃、脱穀の手伝いをしているとき大きなまんまるい月が空に出ていた光景が頭に焼き付いています。65歳になったら農業をやろうと心に決めていました」と、畑仕事で日に焼けた頬を緩めながら語る。

 しかし、望郷の思いとは別に、都市型農業に託す思いは未来に向けられている。「今の時代は人と人、人と地域のつながりが薄れています。私たちが住む地域がそうなってほしくありません。モナの丘に遊びに来る人たちが世代を超えて土と緑の恵みを感じ、健康の大切さを感じてほしい。そうすれば、人と人とのコミュニケーションの喜びも深まると思います」

 こう語る桑田さんの顔には、充実した日々を送る人の生気があふれる。

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