相模原市の人権条例案、骨子より踏み込んだ表現/障害者差別に拡散防止措置


相模原市議会の3月定例会議が13日開会し、本村賢太郎市長はことし4月からの施行を目指す「市人権尊重のまちづくり条例案」を提出した。条例案は、津久井やまゆり園事件について「障害者に対する不当な差別的思考に基づく犯罪」と条例案骨子より踏み込んだ表現とした。一方で、「障害者に対する差別的言動」は禁止の対象には含めず、拡散防止に必要な措置を講ずるとした。【2024年2月20日号掲載】

市議会に条例案を提出した本村市長=議会中継から抜粋

市議会に条例案を提出した本村市長=議会中継から抜粋



同条例を巡っては2023年3月、市人権施策審議会がまとめた答申は、やまゆり園事件を「障害者に対する不当な差別的思考に基づくヘイトクライム」と明記。「ヘイトスピーチを規制し、著しく悪質なものは罰則で対処する」という内容だった。

同年11月に市議全員が出席する全員協議会で、市が公表した条例案骨子は「差別的言動(ヘイトスピーチ=憎悪表現)に対する罰則規定」は含まれなかった。各会派からはこの点を批判する意見や、一方で条例制定が原因で市民の対立につながらないか懸念する意見などがあった。

条例案骨子の前文では、やまゆり園事件を「大変痛ましい事件。事件が決して風化することがないよう取組が求められる」と明記するにとどめていた。市は「把握している事実のみを記載した」と説明していた。

今回の条例案では「障害者に対する不当な差別的思考に基づく犯罪であり、断じて容認できず、決して風化させてはならない」と表現を強めた。

一方で「障害者に対する不当な差別的言動」については、市長が「拡散を防止するために必要な措置を講じる」と記すにとどめた。インターネットでの書き込みや、印刷物などが「拡散する表現行為」にあたる。

不当な差別的言動で禁止の対象としたのは、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に限定しており、市長は勧告や命令、従わなければ氏名を公表できる。また、公共施設の利用を制限する。答申が求めた刑事罰などの罰則規定は設けていない。

市はこれまで「憲法の『表現の自由』に一定の規制を掛ける以上は慎重であるべき、実際に市内であった事実に基づき対象について判断した」「刑事罰の導入までは当たらない」と説明している。

本紙の取材にある市議は「人権への取り組みは非常に大切なことだが、条例に対し意見を出し合っていく時間が足りていない。もっと時間をかけて行っていくべき」と話した。

今後、市議会では各会派の代表質問などが行われ、条例案は3月4日の市民環境経済委員会(鈴木秀成委員長)で議論される見通し。

【ですくめも】

今号1面で、相模原市がことし4月1日から施行を目指す「市人権尊重のまちづくり条例案」が市議会に提出されたことを報じた。昨年11月に市が公表した条例案骨子からの主な内容修正は2カ所。1カ所目は条例案の前文が「やまゆり園事件」について、障害者への差別的思考が犯罪の背景にあると表現を踏み込んだこと。2つ目は条例案骨子では「本邦外出身者に対する不当な差別言動に係る拡散防止措置」としていたが、条例案では「又は障害者に対する不当な差別言動に係る拡散防止措置」と拡散防止措置に「障害者に対する不当な差別言動」が追記されたこと。

昨年3月、市人権施策審議会が出した答申は「ヘイトスピーチを規制し、著しく悪質なものは罰則で対処する」という内容だった。市の条例案には罰則規定はなく、答申から大きく後退と言われるのは、市は憲法の表現の自由に一定の規制を掛ける以上は慎重であるべきと説明する。ポイントとなるのが、条例の必要性や正当性を裏付ける「立法事実」。ヘイトスピーチ規制を巡っては、川崎市で2019年、全国初となる刑事罰を盛り込んだ条例案が成立。最大50万円の刑事罰を科すもので、在日コリアンに対する差別的デモが市内で相次いだことがきっかけとなった。

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