『毒消草の夢』で渡邊氏、写真賞に/2023フォトシティさがみはら


相模原市の総合写真祭「フォトシティさがみはら(FCS)2023」のさがみはら写真賞など各賞の受賞者が決定し、7日に杜のホールはしもと(緑区橋本3)で表彰式が開かれた。国内プロの中堅写真家を対象とする「さがみはら写真賞」には、ノミネートされた作品の中から大阪府出身の渡邊耕一氏(56)の『毒消草の夢 デトックスプランツ・ヒストリー』(写真集、青幻舎)が選ばれた。【2023年10月20日号掲載】

シンポジウムで自身の作品を説明する受賞者(右からERIC氏、渡邊氏、宛氏、西野氏)

シンポジウムで自身の作品を説明する受賞者(右からERIC氏、渡邊氏、宛氏、西野氏)



実行委員会会長の本村賢太郎市長は、ガイドブックの巻頭に「この写真祭をきっかけとして多くの人が写真に興味を持ち、さまざまな視点で一瞬の『光』を切り取り表現する世界の奥深さを感じてもらえれば」とのあいさつ文を寄せた。

同写真集は渡邊氏の2冊目の作品シリーズ。昆答刺越兒發(コンタラエルハ)という植物をテーマに、メキシコやアジアを取材した。江戸時代に西欧から日本へ伝えられた「薬草」であり、今日、コロナ禍でワクチンを開発していた社会情勢と時代性にリンクした作品になっているとする。

コンタラエルハを撮影した渡邊氏の作品

コンタラエルハを撮影した渡邊氏の作品



日本ではどこにでもあるという雑草「イタドリ」を追いかけ、欧州で侵略的外来種となっている現状を写真とテキストでまとめた『Moving Plants』(青幻舎)でデビューした。植物とその背後にある見えない歴史を追って撮影を続ける。

特別実行委員の伊藤俊治氏(東京芸術大教授)は「薬と毒としての植物の両面に着目し、人間と複雑な関係を積み重ねながら、やがて資源となってゆく植物の実態へ新たな光をあてる力作である」と評価した。

アジア地域で活躍している写真家を対象とした「さがみはら写真アジア賞」には、香港のERIC(エリック)氏の『香港好運』(写真集)』が選ばれた。香港の写真家が自らのルーツを求めながら政策に取り組む中、中国返還直前の1997年に来日したエリック氏もまた生地「香港」と対峙し、「香港人とは何者なのかを正面から問う作品を撮り続けている」(伊藤氏)。

アジア部門で受賞したERIC氏の作品

アジア部門で受賞したERIC氏の作品



伊藤氏は、同写真集について「香港という歴史の荒波に晒されてきた特別な場所を自らの源泉としていることを発見し、自分の棲家(すみか)がそこにあり続けていることに気づく瞬間がエネルギッシュに捉えられている」と説明する。

新人写真家を対象とする「さがみはら写真新人奨励賞」は、中国出身の宛超凡さん(32)の『川はすべて知っている―荒川』(写真集)、大阪府出身の西野嘉憲さん(54)の『熊を撃つ Bear Hunting』(同)の2作品が受賞した。

新人奨励賞の宛氏の作品

新人奨励賞の宛氏の作品



 

新人奨励賞の西野氏の作品

新人奨励賞の西野氏の作品



全国公募によるアマチュアの部「さがみはらアマチュア写真グランプリ」では応募者603人から1824点の作品が寄せられ、69人が受賞した。金賞に菅原節子さん(海老名市)の「幻夜」、銀賞に柏舘健さん(福島県)の「パワフルおばあちゃん」と、小嶋典生さん(横浜市)の「兄妹」が選ばれた。昨年に続き萩原由紀夫さん(相模原市)が「祭りの境内」で市民奨励賞に選ばれた。

また、慈善活動団体の相模原橋本ロータリークラブが創設し、緑区を題材にした作品を対象とする「みどり賞」は、小池久男さん(相模原市)の「祭り囃子」、小池久男さん(同)の「子どもの世界」、草間秋夫さん(同)の「告白」、田所正さん(同)の「弾む、春」の3人が受賞した。このほか銅賞3人、入選50人、ジュニア賞3人、ジュニア奨励賞6人。昨年は792人から3035点だったが応募制限を1人5点に絞ったため。

審査員の榎並悦子氏=写真家=は金賞の菅原さんの作品を「渋谷の上空テラスから眺めたビジーな街明かり、とりわけ東京タワーが印象的な夕景と、思い思いに眺望を楽しむ人々の姿を、段差と映り込みを上手く利用して不思議な空間構成でまとめたところが秀逸。目まぐるしく活動する都会にあって、ひとときのくつろぎを感じさせるところも魅力」と講評する。

写真家を取り巻く情勢について「(応募点数の制限が)厳選した作品応募に繋がり、総合的によかった。(イベントの再開で)ようやく写真を撮る環境が戻ってきたことを受け、来年は応募者、点数も増えることと期待している」とコメントしている。

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