消滅の危機に晒された弓道文化/相模原市の行財政改革


今年度末で閉鎖する予定が決まっている市体育館弓道場=中央区富士見

今年度末で閉鎖する予定が決まっている市体育館弓道場=中央区富士見



ビンッと震える弦と、トンと的に矢が当たる音―。市役所や裁判所などが並ぶ相模原市中心部の官庁街に静かな時が流れる場所がある。市体育館弓道場(中央区富士見1)だ。今年度末で同弓道場が廃止となる予定が決まり、利用する弓道家への影響に留まらず市内の弓道文化そのものの存続が危ぶまれている。市内の大学や高校などの弓道部も練習に利用しており、「日本古来の伝統継承にとって妨げになる」とする見方もある。【2023年4月25日、芹澤 康成】
 □協会消滅の危機
市が2021年に公表した「市行財政構造改革プラン」では、市体育館を「築60年を超える老朽化が著しい施設」とし、施設重要度「C」の「廃止」と位置付けられた。その上で、担っていた機能を「周辺施設などを活用し、代替場所の確保に努める」とした。
協会の会員は現在約270人で、中学生から80代までと世代も幅広い。市立弓道場は同弓道場のほか、北総合体育館(緑区下九沢)、総合体育館(相模原ギオンアリーナ、麻溝台)の2施設にあるが、約8割が市体育館弓道場を利用している。協会会員のみの利用だが、県立相模原高校(県相)、麻布大学の各弓道部など団体会員の利用もあるため、年間利用者はのべ約2万3千人(市22年版統計書)にのぼる。
市は24年度以降について、両体育館にある各弓道場の利用と利用枠の拡大を提案。それに対し、協会は「2施設では団体利用枠が制限されており、市体育館弓道場で練習している1万2千人を受け入れることは不可能」と訴える。
協会で利用できる枠は、北総合体育館が火・木曜日夜間の計2コマ(夜間は1コマ午後6~10時)、総合体育館は火曜日の午後、水曜日の夜間、金曜日の午後(午後1~5時)と夜間の計4コマ。市からそれぞれ利用可能枠を増設する提案もあるが、「市体育館まで自転車や徒歩でアクセスする会員も多く、中央区でなければ代替施設となり得ない」とする。
部活動で利用している学生などの練習場の確保にも苦慮している。県相の生徒は、市体育館であれば自転車で5分(約1・2㌔)程度だが、学校から総合体育館や北総合体育館までは20~30分程度(約4・5~5・3㌔)かかる。
空手や剣道などほかの武道に比べ、活動場所に大きな制約がある弓道にとっては死活問題に直結する。協会消滅の可能性について「高くはないが、決して低くもない」と事務局長の小川弘さんは語る。「弓道を続けられない会員の退会者が増えるはず。収益が減れば射会などの行事や事業を縮小しなければならず、入会する魅力がなくなりさらに退会が加速する可能性がある」。
 □実績と進展ある団体
発足したのは1966年3月で、同弓道場のオープンも同じ年。会員数は30人ほどだったが、熱心な会員が集まる鍛錬の場となった。設立からわずか数年、71~73年と76~79年には県総合体育大会で3連覇するなど華々しい門出を切る。
全国でも88年に国体成年女子の部で、会員が県チームの一員として優勝に貢献。2013年に全日本遠的選手権大会でも優勝するなど「相模原」の名を轟かせた。
年3シリーズ(3区各1シリーズ)の初心者教室を行うなど、入門者に広く門戸を開く「風通しの良い気風」が特徴。その功もあってか、22年度には10~70代まで48人の新規入会などがあり、20~22年の3年で減っていた会員数も以前の規模に回復。年内には「会員数で県内最大規模」(同協会)の弓道団体になる見込み。
□中央区に新設要望
協会は2月、市(市長、正副議長)に「現在の(市体育館)弓道場の継続使用がもっとも好ましいが、中央区内に代替施設を新設してほしい」とする趣旨の要望書を提出した。
新たな弓道場の候補地としては、臨時的に開放される横山公園内の「第4駐車場」などを提案し、市に調査を依頼。第1駐車場とは高低差があり間は法面、南側は地山で人の侵入が少ない。「安全性と必要な面積を確保できる市有地はここだけ」と強調する。
弓道場は主に、矢を射る「射場」、矢の通り道となる「矢道」、的を設置する「的場」で構成される。整備に必要な敷地は、近的(28㍍)対応の現施設と同等の規模(幅約20㍍、長さ約32㍍)であればテニスコートおよそ2面分。小川さんも「プレハブでもいい。立派な施設は要らない」とする。
「ひとつの歴史が消えていく。歴史を重ねてきたものを次の世代に残すことがプライドではないか」。そう語りながら、数多くの弓道家を迎えたことを物語る古い引き戸を閉めた。

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