さがみはら表面技術研究所、産学官の垣根を微小化する社内プロジェクト


 さがみはら産業創造センターが一般のオフィスビル管理・運営事業者と一線を画すのは、略称SICの「I」、インキュベーション機能にある。
 基本的にそれは入居企業が抱える様々な課題解決に向け個別に提供されるものだが、実際には内外複数の企業間連携のもとに提供されることも多い。起業後間もない企業、さらなる飛躍を期す企業の抱える課題が密室のやりとりで自己完結的にクリアされることはまずないからだ。
 2010年4月にSICの社内プロジェクトとして発足した「さがみはら表面技術研究所(表面研)」(相模原市中央区上溝1880-2SIC3内、須藤理枝子所長)は、表面技術についての分析・評価等のサポートサービスを通して同社のインキュベーション機能の一翼を担う一方で、研究所自身が地域企業と公的機関、大学等の連携のもとに形成されるコンソーシアムの核として活動するというユニークな組織である。
 須藤所長は大学で化学を専攻。卒業後は、重工企業で環境装置の研究開発や分析・評価に10年ほど従事。さらに大学発ベンチャーを起ち上げ、3年ほど代表を務めた。
 そんなキャリアが、市内に集積する金属加工や表面改質等の企業技術を生かした産学官連携の受け皿を作りたいとするSICの目に留まり、同研設立とともに所長に抜擢された。
 ただ、このエリート級のキャリアを須藤所長自身は全面的に肯定してはいない。
 「大企業では、自分が携わる研究が社会の中で具体的にどう役立つのかが見えなかった。大学発ベンチャーでは、産学官連携の難しさを痛感した」
 こう振り返る同所長にとって表面研は、ある意味、それまでのキャリアで置き忘れてきたものを取り戻す場である。このため、社内プロジェクトとはいえ、企業間はもとより産学官の垣根さえも微小化することが可能な活動の場を得て、スタッフ共々、モチベーションは極めて高い。
 設立からほぼ3年。成膜構造の解析支援や実装基板のはんだの鉛含有分析、新品と再生品との性能比較評価など、活動実績は200件を超える。
 個別企業に対する技術相談支援の成果が口コミによる紹介を通して新規顧客獲得へとつながっているほか、経済産業省のサポイン(ものづくり基盤技術)事業など、補助金を得ての産学官共同プロジェクトのマネジメント支援も積極的に行っている。
 さらに同研が熱心に取り組んでいるのが、市の支援のもと、市内の工業系企業を中心に県産業技術センター、大学と形成しているコンソーシアム活動。一昨年にスタートした「新技術実用化・医療用機能部品コンソーシアム」では、市内の工業系企業、大学、公設試験機関、動物病院等が集結し、ペットなど獣医療分野におけるインプラント(整形外科用体内埋込み器具)の実用化に向けた開発を進めている。

産学官の連携を積極的に推進する須藤社長

産学官の連携を積極的に推進する須藤社長


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