テクノフロンテ、熟練職人の技で未来を拓く


 「何十年もうちのクルマの面倒をみてくれた整備士が引退してしまった」「あの寿司屋は親父から息子になって、少し味が落ちたな」。
 ちまたでよく聞くこんな嘆き節も、「それが時代の流れ」との一言で片づけられるご時世だ。
 ものづくりを生業とする町工場も、かつては職人の技を屋台骨にしていたが、近年では機械・機器に負うところが大きい。CNC工作機など、各種加工機の性能が、使い手の技術、経験に大きく左右されないほどに進歩したからである。
 そのような時代にあって、鉄・非鉄金属の部品加工を手掛ける⑭テクノフロンテ(相模原市中央区田名4530-5、酒巻利光社長)は、熟練職人ならではの技を生かした研磨、研削加工を主軸としたユニークな事業を展開している。
 同社は1996年に、酒巻社長の父・征治氏が創業。同氏は長らく大手建設会社で石油プラントの設計・製造に従事していたが、全く異なるタイプのものづくりがしたいとの思いから、定年を待たずに退職、起業した。
 サラリーマン時代からの人脈を生かし、半導体や工作機械、自動車等の製造設備、航空機部品の治具加工など、様々な案件を積極的に受注しながら、少数精鋭のスタッフとともに技術を磨き、成長してきた。
 こうした中で、顧客からの細かい要望に対応して様々な難題をクリアしていくうちに技術が長足の進歩を遂げたのが、鉄と、ステンレス、アルミ、チタン等非鉄金属の研磨、研削加工である。
 実はこれら2つの加工は特徴が異なる上に、それぞれがいまだに機械より手作業に負う部分が多く、職人の技術、経験がものをいう。
 「ツールや材料の状態は目視や音で判断。多種ある砥石や切削油の選定にも経験がいる」と酒巻社長は話す。
 このため、これらを一社で手掛ける企業は少ない。社の歴史が浅く、特定の技術に依存した事業展開をしてこなかったことで、むしろユニークな存在になり得た。
 とはいえ、このユニークさを受注に結実させるには、積極的な提案型の営業が必要。そこで同社が昨年12月にスタートさせた新事業が精密バイスの修理・改良だ。
 長年の使用で劣化した精密バイスを、熟練職人の手により、新品購入の3分の1程度の価格で新品同等以上の精度に仕上げるというもので、社内技術を外販の形で提案するサービスである。
 「新たな事業を通して、まずは実質3社ほどに依存している取引顧客数を大幅に増やしたい。営業専任の置く余裕はないので、ホームページ、展示会等を積極的に活用していきたい」と酒巻社長は力を込める。
 同社にとって職人の技は、いずれは消えていく運命にある過去の灯ではなく、将来、花火のように大輪を広げるかも知れない未来への灯である。最新鋭のツールを揃えるだけでは未来を拓くことはできない。


新事業で販路開拓を目指す酒巻社長

新事業で販路開拓を目指す酒巻社長

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