世に病院嫌いは多いが、こと歯科に関しては、40代以上なら一種のトラウマを抱える人もいるのではないか。
タービン(切削器具)の音が漏れ聞こえる薄暗い待合室はさながら葬儀場のようで、順番が近づくにつれ緊張が高まる。一昔前の歯の治療は、恐怖感と苦痛を伴うのが当たり前。歯科医も衛生士も無慈悲に思えたものだ。
当時は歯科の未来など想像し得なかったが、塚田医院歯科(相模原市緑区橋本)を訪ねると、隔世の感にとらわれる。
入口の扉を開けるやまず目にとまるのは、生花が飾られたパステルカラーの受付カウンター。大きな採光窓を備えた待合室は明るく、天然木のソファ、壁にかかる版画の数々がくつろぎを誘う。
治療室は、診療ユニットが半透明のパーテーションで囲われた個室タイプ。プライバシーが保たれ、リラックスできる。
同院は、塚田美紀院長をはじめ歯科衛生士、助手らスタッフ全員が女性。院内の隅々まで開放感、清潔感にあふれ、サロンのような居心地の良さをつくり出しているのは、女性ならではの感性の賜物ともいえる。
ただ、同院のオリジナリティの根幹はインテリアや設備ではなく、塚田院長のプロフィールにある。彼女は薬剤師とのダブルライセンスを持つユニークな歯科医師なのだ。
開業医を父に持つ同院長は帝京大薬学部を卒業後、相模原協同病院に勤務。当初は薬剤師をキャリアの発着地と考えていたが、社会経験を重ねる中で心境に変化が生じた。
「薬剤師では患者と言葉を交わし、薬を提供することしかできない。一歩進んだ臨床で医の分野にかかわりたいと思うようになった」
薬剤師としてのキャリア2年で昭和大歯学部に入学。卒業後は、北里大学東病院歯科口腔外科で研修医を務めるなどし、2004年に開業した。
ダブルライセンスの最たるメリットとしては、常時薬の服用が欠かせない糖尿病や心臓病、高血圧等の全身疾患を抱えるために、歯科治療が敬遠されがちな患者にも適切に対応できることがあげられる。しかも、同院は父久雄氏が営む塚田医院(外科・内科)と同じビル(塚田クリニックハウス)内にあるため、両院の医師間の連携も抜群だ。
少子高齢化が進む中、子どもに対する歯科診療は虫歯治療より予防に重点が置かれるようになった。一方、増える高齢者に対しては、全身の健康保持・増進の観点から口腔ケアの重要性がクローズアップされている。
「一生自分の歯で食べることが健康、長寿の礎。院内だけでなく、小学校健診や高齢者の口腔がん検診などの院外活動を通じて、地域の健康増進に貢献していきたい」
こう話す塚田院長との面談を終え待合室に出ると、治療を待つ子どもがくつろいだ様子で本を読んでいた。
同院は様々な麻酔方式による無痛治療が基本。男子禁制でもない。トラウマのある方はぜひ。 (編集委員・矢吹彰/2015年9月10日号掲載)