デジタルストリーム、光ピックアップで世界に貢献/光学式マウスを共同開発


青柳哲次 代表取締役

青柳哲次 代表取締役

  デジタルストリーム(南区上鶴間本町)は1988年に創業したベンチャー企業。光ディスク評価用ピックアップと各種光源の開発・製造、光学機器の受託開発、オーディオ機器の開発・販売を手がけている。米・マイクロソフトと連携して世界初の光学式マウスを開発し、08年度には経済産業省の「元気なモノ作り中小企業300社」に選定されるなど、世界の映像・音響製品の性能の向上に貢献している。同社と、創業者である青柳哲次代表取締役(62)の足跡を追った。            (編集委員・戸塚忠良/2015年4月10日号掲載)

■創業者の歩み

 青柳さんは東京都の出身。早稲田高校卒業後、立川基地でアルバイトをしながら英語を肌で学び取り、米・ペンシルベニア州立大学・大学院で物理学を学んだ。

 自分で何かを作りたいという気持ちを持っていたのと、高校時代の先生が「君は日本よりアメリカで勉強した方がいい」と勧めてくれたためだった。

 30歳のとき帰国し、上智大の研究生に。数年後、フランスの国営企業トムソンから「研究職で働かないか」と声が掛かった。トムソンの研究施設はドイツ南西部にあり、家電部門でデジタルテレビの開発などに従事した。ドイツ流の生活様式にはなじんだが、仕事の中心は純粋な研究というより家電分野のスタッフ17人のマネージャーの役割。このため自分の研究を自由に進める時間が取れず、35歳のときヘッドハンティングに応じて再びアメリカへ研究と生活の場を移した。

 自身の専門分野はレーザ。「レーザの動きは予測できるため、紙の上で数式を立てて考えることができます」と青柳さん。研究を進める中で、「レーザに量子力学を応用して自分の好きなものを自由に作りたい」という思いが募った。

■世界水準の光技術

 アメリカでベンチャーを立ち上げるのはやさしく日本では難しいと言われるが、「やりたいことをやるためにあえて日本でやってみよう」と考えて日本に帰り、上鶴間本町の新築ビル1階を借りスタッフ10人で「デジタルストリーム」を創業。その後近くに本社ビルを取得して現在に至っている。

 当初はディスク評価用光ピックアップの開発、製造でスタートした。評価用ピックアップはCDやDVDディスクが正確に作られているかどうかを評価する装置で、ディスクにレーザを照射し、反射した光によってデータを読み取るシステム。この装置で読み取れなかったデッスクは不良品とみなされる。

 マイクロソフトと提携した評価用ピックアップの開発は見事に成功し、極めて精度の高い製品となって結実した。現在、この製品はDVDのみならずブルーレイの評価用ピックアップとして業界の世界標準になっている。

 開発過程で培った知識や技術は応用範囲が広く、さらなる新製品の開発につながっていく。その代表といえるのが、光学式マウス。99年にマイクロソフトが発売した世界初の光学式マウスの開発についてはデジタルストリームが深く関わった。マイクロソフトとの協力関係は現在に至るまで続いており、同社のゲーム用ジョイスティックとサイドワインダーの開発にも大きな役割を果たした。そのほかの取引先は国内外に広がっている。

■オーディオに進出

 デジタルストリームは13年、音響市場への積極的な参入を目的にオーディオブランド「DS Audio」を立ち上げた。手始めの業務は、自社開発したアナログレコード用光カートリッジの販売。昨年、針の動きを光で読み取る針世界唯一の製品として、DS―W1を発売した。

 「レコード針の動きは光で見るのが一番いい」という青柳さんの信念を形にした画期的な商品で、14年度アナロググランプリ特別賞を受賞してオーディオ業界での高い評価を証明しただけでなく、高音質に強い愛着を持つアナログレコードフアンの間でも大きな反響を呼んでいる。さらに相模原市トライアル発注認定製品に選定された。

■ひらめきを実現

 デジタルストリームの光学技術力は医療の分野にも広がる可能性を持っており今、中国の大学と連携してレーザを使った医療検査の開発を進めている。医療分野への応用は、食の安全に自社技術を役立てる可能性に道を開く。

 「食品の安全性をその場で確かめられる光学ユニットを開発したいですね。市内のレストランなどに普及させれば市内の食の安全性を証明できるだけでなく、広くPRできるでしょう。安全な食のまちというイメージは市の大きな魅力になると思います」と熱を込める青柳さん。実現すれば市の発信力を強めることになるかも知れない。

 開発への意欲を持ち続ける青柳さん。「どんな製品でも、ここが不便だなとか、もっと使いやすくできないかなと思う部分がある。開発の余地はどこにでもあるということです。従って、より質の高い製品を開発することは社会貢献につながるはずです。それを頭のどこかで意識していると、ひらめきが生まれることがあるでしょう。人のひらめきを実現することが会社の役割だと思います」と自らの事業に託す思いを語る。

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