相模工業、航海士から解体業へ/地雷除去で国際貢献


地雷除去活動を支援する伊藤会長

地雷除去活動を支援する伊藤会長


 相模原市中央区由野台に会社を構える解体業の相模工業。創業者は伊藤農利夫会長(72)。前職は「航海士」という異色の経歴の持ち主だ。「船乗りになりたい」という幼い頃からの夢を実現させ、20代は世界の海を回った。しかし、30歳で転機が訪れる。それは「長男の誕生」と「ある事故」をきっかけに、勤めていた海運会社を退職。解体業という新たな道に進んだ。独立後の3年間は苦しかったが「家族を守る」という一心で事業を軌道に乗せた。現在は、カンボジアの地雷除去のボランティア活動に精力的に取り組む伊藤会長。世界を舞台にした航海は続いている。(船木 正尋/2014年2月1日号掲載)

 ■夢を現実に

 出身は宮城県石巻市。磯の香が漂う港町で育った伊藤会長は、8人兄弟の末っ子。
 子どもの頃から船乗りになって世界を巡るのが夢だった。
 その夢を追って商船高校に入学した。
 「親の反対を押し切って入学しました。長男が太平洋戦争で戦死したということもあって、側にいて欲しかったのでしょう」と伊藤会長。
 高校卒業は、念願叶って、神戸の海運会社へ入社し、世界を回った。
 最初は、中南米航路の船に乗った。
 横浜からサンフランシコ、ロサンゼルスを経由し、パナマ、ベネズエラへ。
 4等航海士として、荷物のプランニングのアシスタントや書類作りなどをこなした。
 「サンフランシスコのゴールデンゲートを見た時は、考え深いものがありました。ゲートをくぐると湾が広がって、希望に満ちたような景色でした。船乗りになって本当によかったと思いましたね」と伊藤会長は当時を振り返る。
 その後、上司の勧めで、神戸の海技大学校へ2年間通った。
 最新の航海技術を学んだ。
 「大学校では、宇宙衛星や海洋学などを学びました。新しい技術を習得することは非常に楽しかったです」と伊藤会長は話す。

 ■大きな転機

 29歳の時に長男が生まれた。その頃はニューヨークー定期便に乗船していた。
 「航海中の太平洋上で、『長男生まれる。母子ともに健康』という電報を受け取りました。本当に嬉しかったですね。日本に帰って子どもの顔を見た時、自分が親になったことを実感しました」と語る伊藤会長。 
 長男の誕生を機に、家族との時間を持とうと、いつかは船を降りなければと考え始めていた。その翌年に人生を左右する事件が起こる。 
 2等航海士になった30歳。バルチモアの港でコンテナの積み込みをしていた時だった。
 伊藤会長が、後輩と任務を交代した直後に事故は起こった。
 コンテナの下敷きになり後輩が亡くなったのだ。
 「非常にショックでした。責任を感じ、二度と船には乗るまいと決意しました」
 このことをきっかけに海運会社を辞め、船を降りた。

 ■相模原の地

 伊藤会長が会社を辞めたちょうどその頃、石巻では港の開発中だった。操船に詳しい人を探していると聞き、地元に腰を据えようと土地を買った。
 だが、妻の実家がある相模原に来てくれないかと義母に頼みこまれた。
 相模原で何の仕事をしようかと思っていた矢先、義兄が経営している解体業の会社に誘われた。
 伊藤会長は「仕事は、早朝から始まって、帰りは深夜でした。かなりきつかったですが、ここでは解体業の基礎を教えてもらいました」と語る。義兄の会社を5年間勤めた。
 意見の相違などがあり、独立を決意する。35歳の時だった。
 「石巻の土地を売った資金で中央区共和の土地を買いました。創業して3年間は辛かったですね。生活費がなくて、小銭を貯めていた貯金箱で、米を買ったこともありました。とにかく家族を守ろうと必死で働きました」と苦笑いをする伊藤会長。 
 相模原を中心に県内外を営業で歩き回った。200枚持っていた名刺が一日でなくなることもあったという。
 その甲斐もあってか、3年後には軌道に乗り、公共施設の解体を中心に仕事が増えていった。

 ■社会貢献を

 現在、伊藤会長は、カンボジアの地雷除去の活動に精力的に取り組んでいる。
約10年前、社会貢献しようと、所属していたライオンズクラブでカンボジアでの地雷除去活動を知った。
 資金と物資が足りないと知るや伊藤会長は、ライオンズクラブ330-B地区(神奈川、山梨、東京の一部)など通して資金などを集めた。地雷除去を行っているJMAS(日本地雷処理を支援する会)にこれらを提供した。今も年数回はカンボジアを訪れ、活動している。
 伊藤会長は「ここまで会社を継続できたのは、多くの人々のおかげです。世の中に恩返しをしたいと思って、こうした活動を行っています」と語る。
 航海士から解体業へと波乱万丈な人生航路を歩んできた伊藤会長。その根底に流れているのは、人への「感謝」の気持ちだ。伊藤会長の航海は続いている。

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