相模原市発注の公共下水道管きょ耐震化工事で、2024年9月に下水道管内で作業をしていた2人が雨水に流され死亡した事故を受け、市が同年10月に設置した安全対策検討委員会は同年12月26日に安全対策について報告書の中間まとめを公表した。10月から3回の会議を開き、安全対策を整理したもので、今後は25年度の工事発注に向けて特記仕様書の見直しなどを具体化する。(2025年1月20日号掲載)
事故があった工事は、中央区陽光台3丁目の県道相武台相模原線(通称=村富線)に埋設されている矢部雨水幹線(工事区間=約151㍍)の耐震化を図るもの。すでに設置された下水道管(高さ3㍍、幅3㍍の矩形)の内側に、ライニング材と呼ばれる鉄製の補強材を用いて新たな管を構築する工法で、耐震補強や老朽下水管きょの更新などに用いられる。
作業は地上監視員1人、管内の現場代理人と作業員7人で、県道の地下約10㍍の下水管内で行っていた。午後3時40分頃、雨雲を確認した地上監視員が避難連絡のために1人が管内に入った。同55分頃、マンホールの直下に到着したが、2人の避難が間に合わず突発的な増水に流された。事故の3日後、相模川の磯部頭首工付近で2人の遺体が発見された。
市では、局地的大雨に対する安全対策が必要な工事に際し、土木工事共通仕様書に加えて、関係する特記仕様書(局地的な大雨に対する安全対策特記仕様書)を契約図書に位置付けており、受注者は当該特記仕様書に則した安全対策を行うこととなっている。
再発防止に向けた安全対策案では、計画段階、準備段階、実施段階、緊急事態発生時などそれぞれの状況において、「ヒューマンエラーの発生や機器の故障等も想定した複層的な対策を講じることが必要となる」と指摘。事故の発生に関連すると思われる要因、課題を踏まえるとともに、委員会から受注者(工事業者)と発注者(市)にそれぞれ対策が求められている。
報告書では「労働災害はいくつもの要因が重なり合うことによって発生するもの」とし、同事故についても、「さまざまな要因が重なり合ったことで生じたもの」と推測する。市が保有する限りの情報を基に委員会で経緯などを整理したが原因の特定には至らず、4点の要因と課題を挙げた。
指摘事項は「現場の下水道管きょに係る集水範囲や流達時間等の詳細情報を十分に把握・認識できていなかった可能性」「地上と作業現場の連絡手段であったトランシーバーを管きょ内で使用した際、ノイズが生じる不具合があった」など。特にどのような条件下であれば資機材をその場に放置して、人命を最優先にした迅速な避難を行うべきか、明確な基準がなかったことが挙げられた。
原因は明らかではないが、警報音付回転灯は事故当時、作動していなかった可能性がある。また、警報音付回転灯の使用に係る明確な基準や使用時の行動に係る共通認識やルールが明確に定められていなかった。流出防止柵は設置されていたが、救命胴衣、救命浮き輪は設置されていなかったという指摘もある。
中間まとめでは迅速な避難行動を行うためのルールなどとして、「現場・上流域の周辺において、落雷・降雨が観測された場合における警戒体制への移行」「管きょ内が増水するまでに避難を完了するためのより厳格な中止基準の設定」などを設定。避難が間に合わず、管きょ内が増水した場合に管きょ内の作業従事者が流されることのないよう、親綱、救助用ロープ、縄梯子等の救命・救助器具の設置も盛り込んだ。
中間まとめは、事故発生までの経緯を整理し、再発防止に向けた対策について専門家の意見や近隣自治体の事例などを交えながら議論した。東京都下水道局、神奈川県県土整備局、横浜市下水道河川局の各取り組みも再発防止策の参考とした。