1人の技術者が1台ずつ製作/相模原上溝の電動バイク工場、aidea


電動バイクで国内4大メーカー(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)の一角に切り込んできたのが、2020年6月に初の生産工場を相模原市内に開設した「aidea(アイディア)」=東京都港区=だ。小回りの利く少数生産体制で、ユーザーからの要望にも細かく対応できる柔軟性が強みだ。コロナ禍で需要が高まったフードデリバリーや脱炭素など社会的動向を追い風に、大手ファストフードチェーンや物流業などへの導入など快進撃が続く。

EV製造 □相模原で1日10台

同市中央区上溝の国道129号沿いに工場を設置したのは、周辺に提携する製造業やユーザーが近くに多いため。ルーフや外装など樹脂製品が主だが、原油高や円安の影響で一部の調達を輸入から国産品にシフトする可能性もある。同社製品や代理店として扱うバイクのメンテナンスや補修、それらに必要な部品を保管するサービス・パーツセンターも工場に近い、同区南橋本に構えている。

工場の従業員数は13人(1月31日現在)で、バイクメーカーやメンテナンスショップなどさまざまな経歴だが、乗り物が好きな人やものづくりに意欲のある人材が集まっている。アッセンブリー(構成部品)の組み立てやデザインステッカーの制作などでは女性(3人)も活躍している。

大手メーカーが採用するライン生産方式は、チェーンで吊るされ流れてくるフレームに、1人の作業員がわずか数点の部品を組み付ける分業。一方、アイディアの工場では、高級車の製造工場のように1人の技術者が1台ずつ最初から最後まで組み上げている。社員ひとりひとりが車体の製作工程を理解し、商品に対する責任感を持つためだ。

広報担当の成田裕一郎さんは「目の届く範囲で自分たちの手で作りたかった」と話す。電動バイクの構造を熟知した「職人」を育成し、今後の新型製造や増産に備える。

1日の生産台数は10台程度。1人あたり2~3台を組み立てる計算だ。春から配達専用の2輪車「AA―wiz」を発売する予定で、将来的には小型自動車などの展開も計画している。今後、増産や車種の追加などで新工場の設置などの可能性もあるとする。

「商用車だからデザインは何でもいいというのではなく、かっこよく気持ちよく乗りたいはず」。

デザインセンターは今もローマに置く。アディバの創業者ニコラ・ポツィオ氏がデザインを手掛けているからだ。イタリアから届くデザインやCADデータをもとに3D(立体)プリンターで試作品を出力。フレームや乗車姿勢などに合わせて微調整を繰り返す。

EVアウトドア □環境配慮のEVへ

1996年にイタリアで創業したバイクメーカー「アディバ」が前身で、輸入代理店だった日本法人が同社を買収した。車体製造のノウハウを得たが自社で開発したエンジンがなかったが、新規開発には莫大な資金と時間がかかる。

環境負荷軽減や原油価格の高騰などが叫ばれる時代。構造が比較的簡単で、コストがかからない電動車(EV)の開発に乗り出す。「モーターをコントロールする制御コンピューターの調整に苦労させられた」としながら、15年の買収交渉開始から5年後の20年6月に量産を本格化できた。

同社の製品はホイールにモーターが組み込まれた「インホイールモーター」という形式。エンジン車のように変速機がなく、動力をチェーンなどで伝達する必要もないので、構成部品の点数が半分程度に抑えられた。

□小回り効く電動2輪

「航続距離や充電時間を考慮すると個人よりも事業者に適する」。小さく数の多い荷物を配達する都市部や住宅街であれば小回りの利くバイクに利点がある。導入企業にとっては、電動バイクの方が環境負荷の軽減や騒音の削減といった社会課題に対する取り組みもアピールしやすい。

静音性などはユーザー側のメリットだけではない。完成後の検査装置を防音・換気装置なしに設置できるため、設備投資も比較的少なく済む。住宅地に隣接する工場の敷地内でテスト走行ができるのもEVだからだ。

現在の最大容量は毎時約8㌔㍗で一般家庭の1日分に相当する電気を供給できる。オプションのコンセントがあれば「移動できる電源」として屋外でも使用でき、アウトドアや災害時にも電気を供給できる。

□第5のメーカーへ

AAカーゴは、メーカーが新型車の製造または販売を行う場合に申請を行い、安全や環境などの技術基準に適合していることを国が適合性を審査し、認定する「認証制度」を22年2月に取得。量産車として均一性がとれているかなども確認されるほか、チェックは数百項目もあり、ブレーキ、ヘッドライトなどパーツごとの性能や安全性、寸法や生産管理の正確性などクリアする必要がある。

大手メーカーとは違い、同社には認証取得の専門部署がなく、ノウハウもない。申請方法を調べることからはじめ、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら取得までに約1年を要した。

事前に申し込めば工場見学が可能。試乗や購入などの問い合わせも同社☏03・6427・3600へ。

…続きはご購読の上、紙面でどうぞ。