段差や階段昇れる電動車椅子開発/障害者雇用など社会情勢に対応


同社が開発している電動車椅子

同社が開発している電動車椅子



材料・部品から製造設備やプラントまで幅広く取り扱う商社のアクセスエンジニアリング(相模原市中央区田名)は、真横への平行移動や旋回が可能な車輪「メカナムホイール」(全方向ホイール)を搭載した電動車椅子ロボット「movBot(ムーボット)」シリーズを開発している。下肢に障害がある人や歩行が困難な高齢者でも介助者なしで階段や段差を昇降することができるため、商業施設や美術館、医療・介護施設などと幅広く提案できると期待する。【2022年12月5日号掲載】

□横移動可能な車輪

メカナムホイールは、車輪の外円が45度傾いた樽型のローラーになっている。駆動力を伝達することで通常の車輪と同様に前進後退ができるほか、それぞれの車輪の回転方向を変えることで旋回や左右への平行移動が可能になる。重量物運搬用の台車などに使用されることが多く、「車椅子など人員輸送用では世界でも珍しい」(中村賢一社長)といい、2021年9月に実用新案も取得した。

同社は商社が本業で、三菱や東芝、日立、IHIなどの大手製造業などを相手に材料や部品、その設計や製造設備などあらゆるものを調達・販売してきた。電動車椅子は同社初の自社製品。中村社長が車椅子を利用する妻を持つ知人から、「家に段差が多く、移動が課題になる」と相談を受けたことが開発の切掛け。

商社としてのノウハウで、階段や段差を昇り降りできる車椅子を国内や世界から探したが、介助者や特別な操作が必要なものばかり。「自力で階段を昇れる車椅子がないなら作ろう」として、まず探したのが段差でも走破できる車輪だった。

平行移動や旋回といった特性を知ったのは、メカナムホイールを見つけ出してから。中村社長は「段差の昇り降りだけでなく、狭い場所での方向転換の課題も同時に解決でき、これしかないと思った」と話す。

□館林に工場設置へ

開発に協力しているのは中国製造大手の精巧科技で、同社からエンジニアが派遣されている。「特殊車両や生産設備の開発ノウハウがあり、自動化や再生可能エネルギーなど先進分野への参入意欲が高い」としている。

試作機を今月中旬ごろから1週間程度、川崎市内と都内の介護施設で実証実験を行い、福祉用具としての臨床的評価を受ける予定。試験結果を反映させた量産型の試作機を製作し、調整を行った上で来春をめどに販売を開始したい考え。

製造工場は、事業再構築補助金を活用して群馬県館林市に設置。責任者には現在インターン中のネパール出身者を抜擢し、従業員はベトナム人を雇用する計画。23年春ごろから稼働する予定。

販売価格は100万~250万円を想定。障害者雇用を検討している官庁・企業をはじめ、商業施設や医療・介護施設、美術館などへの販売が原則。リースやレンタルなどの手法も検討している。

□3つのモデルで展開

シリーズは、補助者や切り替え操作なしで階段の昇降や電車の乗り降りなどができる「エース」、フルフラットになる椅子と見守り(座位や心拍)機能で医療や介護の現場で労力を軽減する「ナース」、座面の昇降機能で下肢障害者の就労を支援する「ビジネス」の3機種をそろえる。いずれもメカナムホイールによる平行移動などが可能で、階段の昇降機構がないナースとビジネスでも数センチ程度の段差なら昇り降りできる。

ビジネスは、さがみロボット産業特区の22年度後期公募型実証実験支援事業に採択された。あらかじめ登録した地図情報をもとに自律走行を行うマッピングシステムを搭載し、商業施設などにおける利用の可能性を検証する。

国が進める障害者雇用促進を背景に開発を進めているモデル。車いす利用者でも立っている人と同じ目線で会話ができるほか、座っている状態では手や目が届かない場所での作業なども容易になる。健常者と同じ目の高さで車椅子の向きを変えることなく移動できるため、美術館の館内鑑賞にも利用できると見込む。

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