小星重治さん、画期的開発重ね紫綬褒章/重炭酸健康入浴剤を錠剤に


多数の英語論文もある子星さん

多数の英語論文もある小星さん



小星重治さん(72)は相模原市緑区相原に生まれ、県立相原高校に学んだあと小西六写真工業(現・コニカミノルタ)に入社。技術部に配属され、30代から40代にかけてつぎつぎに画期的な技術を開発し、紫綬褒章、科学技術庁長官賞をはじめとする数々の栄典や賞を受けた。現役引退後、「写真技術で社会に恩返ししたい」という理念を掲げて健康入浴剤の開発に着手。中性重炭酸入浴剤の開発と錠剤化に成功し、現在は重炭酸湯の普及をめざして東奔西走する毎日を送っている。
(編集委員・戸塚忠良/2016年5月10日号掲載)

■写真業界へ

小星さんの生家は相模原市史にも言及されているという相原の農家。姉4人、兄1人の末っ子で、「小さい頃は村一番のいたずらっ子だった」と、苦笑交じりに振り返る。相原高校工業化学科在学中からイオン交換樹脂などに関心が深かった。

卒業後、コニカミノルタ社に就職。適材適所と言うべき技術部に配属され、研究室で夜中まで熱心に実験を重ねる日々を過ごした。

その真摯な取り組みが認められて、社内の国内留学制度により東京都立大工学部で学ぶチャンスにめぐまれた。

卒業まで会社勤務、大学での研究生活を両立させ、写真についての知識を深め、技術開発への意欲を高めたことは言うまでもない。

こうした研究から「専門的な知識を深めるには原書を読むことが何より大事」という考えが揺るぎないものとなり、後に、会社で毎朝、部下を集めて専門書の英語の原書を読む集まりを持つこともあった。

■相次ぎ新発明

会社での実績は枚挙にいとまがない。1970年の大阪万博でVIP用の写真付きIDカードを開発したところ、それまでに無いアイデアとして注目され、なかでも警察庁の目に止まって運転免許証に応用される運びになった。このときのIDカードが現行の免許証の原型になったと言って過言ではない。

次の画期的な業績は、水洗処理を必要としない現像システムの開発である。

それまでのカラーフィルムは、街の写真店を経由して現像所に送られる仕組みになっており、現像するためには大量の水が必要だった。しかし、水洗処理をなくしたことにより、水資源の節約に貢献するのはもちろん、写真店での1時間処理を可能にする革新的なプリントシステムを誕生させた。

開発への取り組みはとぎれることなく続き、84年、写真の処理剤を錠剤化する技術を開発した。写真処理のドライ化を実現したこの開発は、それまでの処理技術を大きく変えるとともに、後に小星さんが起業する際の土台にもなった。

■華々しい受賞歴

これらのほかにも研究室長、開発センター長として数多くの特許技術の開発に携わった実績が評価され、独創的な技術開発者に贈られる発明大賞を受賞。95年に科学技術庁長官賞を受賞し、99年には学問・芸術・発明などの分野で顕著な功績のあった人に贈られる紫綬褒章を受章した。

定年退職後もコニカミノルタの特別顧問に迎えられ、技術開発と後進の指導に力を注いだが、同社が写真業務から撤退するのを機に04年、完全退社した。

だが、その2年後には「写真技術で社会に恩返しを」を社是に掲げてホットアルバムコム社(八王子市)を設立。古巣の会社から譲り受けた特許技術を駆使して画像管理ソフトを開発・発売した。この製品は国内外の大手メーカーから注目され、デジタルカメラの付属ソフトとして使われている。

■入浴剤開発

「社会に恩返ししたい」という気持ちはもう一つの形になって結実した。重炭酸入浴剤の開発である。

会社員時代、ドイツへ出張することがよくあり、バート・ナウハイムという温泉地の天然炭酸泉に出会った。「この温泉は驚くほど体が温まる」「時差ボケが一気にふき飛ぶ」と感じた小星さんは、「この効果を家庭で再現する錠剤を開発できないだろうか」と考えるようになった。

機会あるごとにこの温泉や、同じ炭酸泉である大分県長湯温泉の成分分析などを重ねた末09年、「世界で初めて」と胸を張る中性重炭酸イオン入浴剤の開発に成功。コニカ在職時に開発した写真処理剤の錠剤化の手法を使って、錠剤化も実現した。

「健康寿命を保つ決め手は体温を上げること」という信念にもとづく製品で、「写真技術を使って社会に恩返ししたいという念願を果たした」と強い自信をのぞかせる。

11年には自分の思いを結晶させたこの錠剤「Hot Tab」 の本格的な製造販売に着手し、現在は販売拠点となるホットアルバム炭酸泉タブレット社を東京・新宿に置き、大分県竹田市と新宿に関連子会社を設けている。

紫綬褒章受章という栄誉に彩られた写真技術の開発実績と、自ら体験した健康促進のための入浴剤開発をつないでいるのは、「他人のために役立ちたい。自分の幸福は他人を助けることにある」という終生変わらぬ思いだ。

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