横山房男さん、転業重ねて活路開拓/「こけ丸」で商店街振興を図る


いつもおしゃれな横山さん

いつもおしゃれな横山さん

 横山房男さん(72)は富士山の裾野、静岡県十里木の生まれ。10歳までここで育ち、その後相模湖プレジャーフォレストの近くに移り、青春時代を過ごした。高校卒業後、サラリーマン生活を送ったが、わずか2年で退職、独立した。その後も有為転変の日々を過ごし、自動販売機関連の仕事や手作り弁当の製造・販売業などに従事。現在は相模原中央商店街協同組合理事長を務める。「天の声を聞いて次の生き方を決めた」と回顧する、経験豊かな経営者の半生をたどった。(編集委員・戸塚忠良/2016年4月1日号掲載)

■2年で脱サラ

 生地の十里木は、今でこそ観光地として知られているが、横山さんが生まれた当時は戸数17戸という小さな集落だった。父親は農家ではなくサラリーマンで、勤務地がよく変わった。

 小学2年生のときまで生活した山村を思い返しながら、「みんなが力を合わせて共存共栄するという気持ちでつながっていた。その気持ちが今でも自分の心の中に残っているのではないかと思うときがある」、横山さんはこう述懐する。

 相模湖畔に転居して山梨県立都留高校に通い、卒業後は東京・蒲田にある自動車部品の製造企業に就職した。ところが2年勤めて周りを見渡すと、「大卒と高卒は違う」と気づき、「もう一度自分の将来を見直そう」と考えた。

 すると、「自立したい」という思いがつのり、独立して会社を興すことを決意。弱電関係の組み立てを業務にする下請け会社を立ち上げ、企業家として歩み始めた。まだ20歳のときである。

■「天の声」を聞く

 初めのうち仕事は順調だったが、「どんな仕事でも波に乗りそうだと思うと大きな課題が出てくるのが私の人生」と話すように、まもなくオイルショックという大波が日本中を襲い、景気は急降下。横山さんが経営する下請け会社も深刻な打撃を受けた。

 「この先どうしようかと悩み抜いた」と横山さん。そのとき、頭にひらめいたのが、自動販売機を活用する商売。「これからはこれだと、天の声を聞いた思いがした」という。

 自動販売機の販売・設置・管理を手掛ける仕事に転換したのが功を奏し、コーヒーなどの飲料販売機の設置数は右肩上がりに増えた。また、調理したうどんやハンバーグをプレハブ造りのフード施設に提供する仕事も増える一方で、絶頂期は神奈川県内の30店舗以上に商品を供給するまでになった。

 時代のニーズを先取りした商法だったが、順風満帆の時期は長くは続かなかった。社会の変化が横山さんに大きな課題を突き付けたのである。

 「店の隣近所にコンビニやファストフードの店舗ができはじめると、そちらの方に客足が向くようになり、フード施設の売り上げは激減した」

■手作り弁当店

 横山さんにとって三度目の転機が訪れていた。生き残りの方策を模索するうち天の声が聞こえる。「これからは手作りのお弁当屋だ」。

 国道16号線沿いの相模原市中央に手作り弁当の「厨 でん田」1号店を開いたのは約30年前。豊富なメニューと低価格が客を呼び、新たな分野への進出は成功した。その後は相次ぎ姉妹店を開設し、17店にまで増えた。

 自動販売機の設置・管理などの業務も継続し、新会社「ラクサニー」(中央区上溝)を設立。まもなく子息の智久氏に社長職をバトンタッチした。
 
■こけ丸と共に

 転身を重ねた横山さんが今、最も力を入れているのは、相模原中央商店街協同組合理事長としての活動だ。組合が法人化した当初から理事を務め、副理事長を経て7年前に理事長に就いた。

 「この商店街は駅の近くという集客に有利な立地性を持っていない。16号で二つに分断されているのも不利な条件。だから、人を呼ぶには、何か特色を持たなければ」と考える横山さんは、商店街主催の手作り絵本コンクールへの応募作品から生まれたマスコットキャラクター「こけ丸」を生かした商品開発やイベント、絵画教室の開設、着ぐるみマスコットでのPRなど多彩な活動を展開。

 市役所近くの雑木林に「こけ丸の森」という愛称を付け、自分の店舗も「こけマルシェ」に改装して商店街のPRや催し物の拠点にしている。

 このほかにも年間を通して多彩な集客イベントを開催しており、商店街内のリバティ大通りなどを会場とするねぶたカーニバルや、ペイントアートとグルメを組み合わせたPP1グランプリには地域内外から沢山の人が足を運んでいる。

 「今は商店街そのものが変わりつつある。まちづくりという大きな視野の中で街にどう活気を吹き込むかを考えたい。生き残るためには、あの商店街はいつでも動いているという印象を持ってもらうことが大切」と力をこめる

人生の節目、節目に聞いたという「天の声」。横山さんは、相模原中央商店街のさらなる振興に向けて、次はどんな天の声を聞くのだろうか…。

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