パウ、立体造形で確かな地歩/「奇跡の一本松」保存に参加


制作中の風神雷神像と満田さん(中央)

制作中の風神雷神像と満田さん(中央)

 テーマパークや美術館のモニュメント、商業施設のPRディスプレーなどさまざまな立体造形の制作施工を手掛ける㈲パウ(相模原市南区麻溝台)。FRP(繊維強化プラスチック)を素材にした作品はテレビコマーシャルや市内の企業の店頭などでもおなじみだ。その技術力の高さは、東日本大震災で被災した陸前高田市の『奇跡の一本松』の保存、修復事業に参加したことが証明している。代表取締役の満田茂春さん(67)は、15歳のときからこの道一筋に歩み、業界で独自の地歩を築いている。現在も意欲的に立体造形に取り組む職人社長の半生を追った。(編集委員・戸塚忠良/2015年11月20日号掲載)

■町田で修業

 満田さんは熊本県天草郡(現・天草市)の出身。生まれ故郷はまだ田舎そのままの土地柄だった。絵を描くのが好きで中学では美術部に属していた。卒業と同時に学校の先生の親戚筋にあたる東京・町田市のマネキン人形の制作会社に就職。夜間高校に通いながら制作技術を習い覚えた。 

 田舎から都会へ出て来たはずだったが、会社があった町田市本町田は1960年代にはまだ都会化していなかった。会社も人里離れたという感じの場所にあり、「人恋しさにホームシックになった」と苦笑交じりに回想する。

 マネキンの型を取ってやすりをかけ、化粧を施すという一連の作業を習い、「技術をおぼえるしかない」という強い気持ちを支えに業の習得に取り組んだ。紙やすりで人形を磨く作業を重ねたため指が少し曲がってしまった痕跡は今も残っている。

 やがて「自分で形を作り、塗装もしたい」という思いが強くなり、社長に申し出たところ、自身も制作者である社長は「いいよ」と二つ返事で許してくれた。就職して8年目のことだった。仕事のほか自分のイメージを元にした作品制作に励み、「自分なりにああしたい、こうしたいというところを自由に形にできたので楽しかった」という。

 ■つくば博が転機

 数多くのマネキンを制作することで次第に自分の技術に自信を持てるようになり、31歳のとき独立した。現在地で開業した後、それまでに培った人脈も生かしてかなりの仕事量を確保したが、火事で工場が焼け、借金返済のための仕事に明け暮れる苦しい時期も過ごした。

 85年のつくば科学万博のサントリー館に、翼を広げて飛び立つトキの立体造形を提供したしことが契機になって仕事の内容が変わっていく。

 「この頃からマネキンより博覧会やイベント、美術館などからの需要が増えた。社会そのものがこの方向へ動き出したからだと思う」と語る。この年に会社を設立した。

 それ以来商業施設はもちろん、テレビやテーマパーク、博物館、美術館、公共施設などからの需要に応えてレプリカ、動植物、擬木、擬岩、ジオラマなどを提供している。この中には、船の科学館の深海6500メートルの模型、地球環境子ども村の亀岡の自然ジオラマ、淡路島おのごろ愛ランドのノートルダム寺院など枚挙にいとまがないほど多くの作品が含まれている。

 また、東京ビッグサイト入り口のからくり人形、富士急スケートミュージアムの岡崎朋美像、テレビCMで使われる風呂の浴槽といった作品もあり、相模原市内のホテルや私立学校でもパウの作品を目にすることができる。

 ■奇跡の一本松

 こうした実績は、全国の人々の耳目を集めた事業への参入につながった。東日本大震災でほぼ壊滅した松林の中で、津波に耐えて生き延びた陸前高田市の松の木を復元・保存するプロジェクトのうち、枝葉部分の型取りと複製を受け持ったのである。

 「この仕事を仲立ちしてくれた人とは30年来の付き合いがあり、声を掛けてくれたことに感謝している。参加できたことを有難く思っている」と顔をほころばせる。

 来年8月までは目いっぱい仕事が詰まっているのが現状で、ゴルフ場へのモニュメント設置といったニーズもあり2年先、3年先までの受注も見込んでいる。

 そんな中で、満田さんが京都まで足を運んでスケッチし今まさに制作中なのが、三十三間堂にある風神雷神像のレプリカ。3カ月をかけて完成させる予定だ。

 3年前から開講している子供を対象にした造形教室も続ける。

 ■「生涯現役」

 52年間の制作活動を振り返って、「職人は数をこなして体で覚えなければ何もできるようにはならない。プライドを忘れず、自分の目標をしっかり持ってそのために我慢する気持ちを持ち続けることが大事」と後進にアドバイスする。

 自身のこれからについては「歌舞伎や相撲、仏像などに題材を求めた作品を作り、個展を開いてみたい」とアーティストの顔をのぞかせ、「職人がほんとうに使いやすい道具も作ってみたい」と付言。「生涯現役でいたい」という言葉に熱をこめる。

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