鈴木貞さん、経営指針は「お互い様」の心/社員の和と愛が生産のベース


創業者会長の鈴木貞さん

創業者会長の鈴木貞さん

 中小企業の経営者の中には苦労して会社をおこし、景気変動と技術開発の荒波にもまれながら創意と行動力を駆使して会社を存続、発展させた人が少なくない。東鈴紙器(相模原市中央区)とサカエ包装企画(同)の取締役会長を務める鈴木貞(さだし)さんもその一人。1975年に東鈴紙器を設立して以来、段ボール・紙器・梱包材の製造販売を軸にした事業を展開してきた。創業から事業承継までの足跡を振り返り、自らの指針とした経営観を語ってもらった。
(編集委員・戸塚忠良/2015年9月1日号掲載)

 ■東鈴紙器設立

 福島県出身の鈴木さんは川崎市や都内のいくつかの企業で営業などの仕事を経験したあと、元同僚に乞われて相模原へ転入。

 最初は古い家畜小屋と中古機械を借り、ベニア板で囲った作業場で段ボール製の包装容器を作った。

 「当初はほとんど手仕事で、型を作るのも手作業だった。自動車関係の仕事が多く、明日の朝までにできなければ仕事をほかにまわすという、きびしい注文もあった」と回顧する。

 やがて起業を志すようになり、独立開業を決意。資金はとぼしかったが、仕事で世話になっている人に「初めから金があれば事業に失敗する。裸一貫からやってこそ本当の自分の事業」という言葉に力を得て、37歳のとき市内相模原に東鈴紙器を設立した。

 第二次オイルショック直前だったが、会社は取引先を広げつつ順調な歩みをとげ、設立の翌年には浜松営業所を開設。80年には小町通りに現在の本社・工場を新設移転した。さらに83年には本社近くにサカエ包装企画を開設。両工場の設備を充実させるとともに美粧包装、美術印刷などの注文にも応じる態勢を整えていった。

 ■「お互い様」

 こうした発展の中で創業社長としての経営の苦労はもちろんあり、なかでも手形の決済には頭を悩ませた。「120日の手形を切っても90日を過ぎれば金の心配をしなければならない。それは結局時間のロスにつながる。だから手形を切るのはやめた。反対に、もらった手形を割り引けば割引料がかさむ。その分を税金や社員のボーナスに充当した方がいいと考えた」という。

 飛び込み営業に汗を流したことも数知れず、7年半の間足を運んで入りこんだ企業もある。そういう積み重ねの中で人間関係を広げたことも少なくない。

 會社を維持するため自分の給料を社員より低く抑えた時期もあったが、「若い頃のつらさを思えば、経営の苦労など苦労だとは感じなかった。むしろ当たり前の試練と思った。どんなときにも、自分の城は自分で守れと言い聞かせていた」という。商業高校で学んだ妻の経理面での支えも大きかった。

 経営者としての手腕を磨く経験を重ねる中で大切だと痛感するようになったのは、“お互い様”の精神と、あらゆることについての整理整頓の心がけ、という。 

 「対面でも電話でも、その人の心の持ちようは言葉遣い一つ、態度一つにあらわれる。働く場でも、家庭や地域での生活の場でも、自分が多くの人に支えられ、生かされているという自覚を持ち、“お互い様”という精神があれば、その気持ちはかならず相手に通じる。また、自分の歩く道に何か障害になるものがあれば自分の手で取り除き。生活環境を自分で整えるという気構えが重要。その意味で、どんなことでも整理整頓が大切だと思う」

 ■エコパッキン

 品質・コスト・デリバリー重視の商品製造を続ける東鈴紙器は、環境保全と軽薄短小の時代が求める画期的な容器の生産も推進している。小さい段ボール箱を作る場合、通常は抜き型を作る必要があるが、この抜き型なしで小型のダンボール箱を製造する技術を開発し、緩衝性がよく梱包・開梱時の作業改善に役立つエコパッキン(小袋包装)の製造販売を業務の柱の一つにしているのである。この製品は古紙を利用した環境配慮型商品という特性も備えている。

 ■心の赴くまま

 こうした実績も残して2人の子息に実務を託し、10年前に社長から会長職に就いた鈴木さんは今、週に何日か出社する生活を送っている。後継者の経営を見守る立場に移ったのは間違いないが、従業員に対して『おたがいさま』の気持ちをあらわすことに変わりはない。

 「パソコンをたたくのは1時間もあれば十分。それより工場の中を歩いて、従業員に『親御さんは元気か』『子どもさんは何年生になったの』などと声をかけるのが楽しい。お客様に最上の製品を提供するためには、社員の和と愛が欠かせない。この気持ちを働く人たちに伝えたい」と語る。

 自由な時間も増えたため、野猿峠近くの畑地でブルーベリーを栽培している。ここでも会社の草創期と同じ手仕事に汗を流す。また、橋本倫理法人会監査も務めている。

 そして、「目をつぶっていても機械が品物を作ってくれる時代だが、ものづくりは人の手と機械の力が一体になった半自動が一番いいのではないか」と笑う。社会が求める技術・製品開発に努めつつ、何よりも人の心を大事にしてきた経営者の真情こもる感慨にほかなるまい。

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