石井珈琲店、50歳で脱サラ カリスマのもとで修業し開業/自家焙煎コーヒー


愛好家からプロに転じた石井代表

愛好家からプロに転じた石井代表

 コーヒー好きにとって、日本は欧米より恵まれた環境にある。
 相模原でも、駅前や街道沿いにはセルフ式コーヒーチェーンや喫茶チェーンが数あるし、最近はコンビニのコーヒーもうまい。圧倒的なのは、自動販売機の存在だ。

 それでも、往年のコーヒー党には「何かが足りない」と感じている方が少なくないはず。

 石井珈琲店(相模原市緑区久保沢3の3の39)に足を運べば、おそらくその“何か”が満たされるのではないか。

 開店は5年前。老舗ではないが、カフェブームに乗った風情でもない。

 古風な店名表示が目を引く佇まい。格子柄の扉を開けると、梁や窓枠、床から調度品に至るまで木がふんだんに使われた落ち着きある空間が広がる。店内に充満する挽きたてコーヒーの心地よい香り。もうそれだけでほおが緩む。

 正面には古き良き時代の定番であるカウンター席。その奥で、キャニスターが整然と並ぶ棚を背に、寡黙にペーパードリップの腕を振るうのが代表の石井満氏である。

 09年、技術者として27年間勤めた製造系企業を50歳で退職。悔いのない第2の人生をと選択したのがコーヒー店の開業だ。

 同代表のコーヒー歴は30年余りで、サラリーマン時代にコーヒーインストラクターの資格を取得。本格コーヒー店を開くには、それだけでも十分といえるが、愛好家からプロに転じる以上、そこに妥協はない。コーヒー焙煎のカリスマとして知られる、カフェ・バッハ店主・田口護氏の門を叩き、1年間、相模原と台東区を往復し修行した。

 「焙煎技術は勘や経験がものをいう分野と思われがちだが、田口氏のノウハウは理詰め。それで成功を収め、多くの後進を育ててもいる」と石井店主は話す。

 店内の一角にオブジェのように鎮座する田口氏監修の焙煎機こそは、紛れもなくバッハグループの一員としての証であり、誇り。グループ内における情報、技術の交換も貴重な財産となっている。

 ただし、同店は〝通〟のみをターゲットとしたお高い店ではない。

 「リピーターには地元の主婦グループや親子もいる。若いカップル、高齢夫妻も珍しくはない」と石井代表。

 このため、コーヒー以外のメニューを増やしたり、座席配置で分煙を図ったりと、お客様第一の工夫を重ねている。

 さらなる集客を目指すなら、国道413号川尻交差点近くの路地裏という立地を見直す必要もあるのではと水を向けると、同代表から意外な答えが返ってきた。

 「近隣への移転はあり得るかもしれないが、地元から離れるつもりはない。今後は豆の販売を伸ばしていきたい。それに向けて焙煎や出張販売に費やす時間を十分とるために今年、定休日を週2日に増やした」

 また同店では、プロ直伝の味を自宅でも味わってもらおうと毎月、淹れ方講座を開催している。

(編集委員・矢吹彰/2015年8がつ10日号掲載)

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